窓を開ける

今のところ映画の話をしています

映画「SEOBOK/ソボク」が刺さって抜けない

どわーーーー!!!!(悲鳴)

そもそも映画館で観る予定は無かったんですが「近未来SFらしい」「コン・ユがすごいらしい」、という曖昧な情報を得たので…ふーん……行っとくか……みたいな感じで観てしまい、まんまとフェイタリティかまされた間抜けな人間ですこんにちは(自己紹介)。

いやこれは…

えらいものを観てしまった…

ジャンル媒体問わず近未来SFは大好物なんですがね!!そこに剛速球の関係性をぶつけられてこっちは息も絶え絶えだよ!!!!ころす気か!!!!!(そうかもしれん)

SF…というか物語の作り方としては非常に正統的で、テーマに対して極端な反例を考えてみる、その事例がSF的設定を要する、というやつですね。近未来SFの佳作は割とこのパターンが多い。本作のメインテーマは「死は人間にとってどういうものか?」で(たぶん)、主役は死にかけの男と、生き続ける宿命を負った少年の二人なんですよ。なるほど~~~いやこの設定、SF好きなら同工異曲の諸々をたくさん見たことあるような気がするじゃん??だから、この設定で何を見せてくれるんだ??っていう、ちょっと斜に構えた気持ちで観始めたわけです(良い子は真似しないように)。最初は。

以下、ネタバレ部分は配慮する予定だけどさじ加減が自信ないから観てない人はとにかく観てね!!!

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物語の構成も本当に基本に忠実で、バディ物として考えると、正反対の二人が反発し合いながらも心通わせていく過程が美しいのだけれど、その対比の組み合わせが
        生きたい男/死にたい少年
        眠れない男/眠らない少年
       時間が無い男/希望が無い少年
      死にかけの身体/永遠の生命
 絶望に塗りつぶされた過去/何も期待できない未来

ていう感じで、観客のメンタルをゴリゴリと削ってくる設定が山盛り。いやー、韓国エンタメすげーわ…剛速球じゃん…受け止めきれねえょ…。

不死を手に入れた人間はどういう存在になるのか?

死ぬのは怖いのに、なぜ眠るのは怖くないのか?

生きたいと願うことは自然なことなのか?

永遠の生命は、人間にとってどういう意味を持つのか?(アメリカでは平均寿命の短縮が始まっているというこの時代に、不老不死の妙薬がまた渇望されるようになるんだろうか?)

映画の中で繰り返し出てくるモチーフのひとつが寄せては返す波打ち際の光景で、それはタイトルにもなっている徐福(ソボク)が、2千5百年前に不老不死の妙薬を求めて旅立った海であり、生命誕生の舞台となった太古の揺り籠であり、それ自体が永遠に繰り返す波であり、けれど二度と同じ形になることはない、ただ一度だけ生じる波でもある。生命の秘密を載せた巨大な船、儚くも力強く飛翔する鳥たち、一度きりの夜明け。様々なモチーフが、彼岸と此岸の境界を問いかけ、本作のテーマを繰り返し想起させるのです。

ところでしょうもない感想を挟みますが、荒み切ったコン・ユと全ての表情が美しいパク・ボゴムの組み合わせ考えた人はマジで天才。監督かな??ありがとうありがとう。

コン・ユ演じる元エージェントは、過去にも未来にも救いが無くてそれでもボロボロの状態で生きていて、そういう人間が、自分とは全く違う意味合いで絶望している少年と出会ったときに生じる複雑な感情の動き、衝動的な怒りに潜む深いいたわりや、絶望に溺れながら触れる希望のきらめき、鮮烈なのに言葉にし得ないものが、画面越しに痛いほど伝わってくる。コン・ユはすごい役者だなと思いました(今さら)。

生きることと死ぬことへの深い絶望というただ一つの共通点を持つ二人が、互いの絶望に触れたあとに見る世界は本当に美しく、地獄の底に流れる清水を掬うような物語でもあります。

あと、コン・ユが元エージェントという設定がきちんと活かされていて、追跡者をミニマムかつ的確な動きで仕留めていくのがめちゃくちゃかっこよくて、しかも物語全体に強い説得力を与えてるのがまた素晴らしい。アクションシーン、多くは無いけどどれも印象的で、一見の価値ありです。良いものを見た。

守るべきものを何も持たない(自分の生命さえ自らのものではない)二人が、逃避行の果てに見つけた答えとは何か?選ぶべき未来はあるのか?特にパク・ボゴム演じる特別な少年の抱える絶望は凄まじく、物語の中盤以降は、ご都合主義でもいいからどうにかして幸せになってくれ、と祈るような気持ちで二人の旅を見守ることになります。本当にしんどかった。

(↓本当にネタバレなので反転します。ただの呻き声なので読まなくていいやつです)
マジでさ、全てを蹴散らして、人類すべてを滅ぼして、この世の果てで一瞬でもいいから生きて幸せになって欲しかったな~~勝手な願望なことは承知の上だよ!チクショウ

まあそんな(無責任な)観客の祈りは置いといて、物語から逃げずに、ラストできっちり"答え"を見せてくれた監督の誠実さがありがたかったです。中途半端な感傷は許さないんですよね、そういうのが評価されるの、韓国映画のいいところだよな。こういうテーマを扱っている物語で、最後まで安心してついていけるの結構大事なポイントだと思うんですよ。

あと、静謐で美しいシーンと激しいバトルアクションとの対比も印象に残っている。それはコン・ユとパク・ボゴムのキャラクターの対比でもあるんですが、緊張と緩和、動と静の移り変わりが物語全体にリズムを与え、観客をその世界に引き摺り込みます。

韓国ノワールの、ダークで容赦なくて切実で、その中で足掻く人間たちが見せる真実の光、もはや様式美とも言えそうな要素を確実に引き継いでるんだよなあ~良い…。

SF要素でいくと、研究所セットのちょうどいい未来感も良かったです。生命科学分野は専門ではないのでどれくらい"それっぽい"のかは評価できませんが、妙にアナログなところと先進的なところが混在してて、そのバランスが絶妙だったな~と思いました。

とはいえ一つだけ気になったところがあって、これもマジでネタバレなので以下反転しますが元エージェントの過去は、もっとぼかしても良かったし別に女性じゃなくても良かった。年若い後輩とか…と思ったけど、ソボクに対する感情の純度が下がるから微妙か。引退したエージェントが"組織に逆らえない"理由は必要だけど、あのエピソードである必然性が薄かったのがやや残念でした。

ということで、もうちょっと脚本は練る余地があったかなと思いつつ(序盤の導入もちょっとだけもたついてたし)、これ以上完成度が上がると観客が致命傷を負うのでまあこれくらいで許してやらあ、みたいな感じです。ほんとすいません。

シンプルで本質的なテーマと分かりやすいアイディア、俳優の熱演を堪能できる丁寧なつくりのエンタメなのでみんな観よう!(ここまで読んだ人はもう観た人なのでは)

清水玲子の短編っぽい雰囲気なんで、そういうの好きな方にぜひ観てほしいです!!(ここまで読んだ人は以下略)

この記事書くためにいろいろ思い出してたらなんか辛くなってきたね…うぅ…みんなも泣きながらカップラーメン食べようね!

では!!!!!