窓を開ける

今のところ映画の話をしています

映画「ストーム」(原題:大雨)を観た思い出

本題に入る前にひとつだけ、本編の出来の良さの前には些末なことではあるけどさあ、”ストーム”も”大雨”も一般名詞だから検索性が悪すぎるんだよ~~~~!!!!邦題、なんとかならんかったか!?!?

中国のアニメーション作家である不思凡監督の最新作『ストーム』、2024年3月時点で日本語字幕版を観れた一般人はおそらく200人にも満たないであろう未だ幻のような映画なので、ちょっと書き残しておかないと自分でも「夢だったかな?」みたいになりそうでやばい。

この記事で騒いでいた不思凡監督の前作『DAHUFA 守護者と謎の豆人間』も結局、劇場で2回観たあと本編は観れてないんよね。なんか中華アニメイベント上映とかでも諸事情?とかで上映されたことが無い。つらい。ブログを書いたときはまだ配信とかソフト化とかあるかな~とか呑気なことを考えていたが、2年以上が経過した今となっては再視聴できる見込みが無さ過ぎて悲しい。

で、『ストーム』<東京アニメアワードフェスティバル2024>で上映されると聞いて(熱心なファンの方のSNSアカウントで知った、五体投地しても足りないくらいの感謝を捧げたいと思います。深謝!)、これ逃したらもう一生の間に観る機会が無いかもしれんな…と思い、はるばる東京まで出かけたわけです。

いや~~~~良かったよね~~~~~~~!!!!!!!!なんかものすごい密度の世界設定に美しく奥深い画面内でユニークかつ魅力的なキャラクター達が躍動する傑作でしたよね!?!?(誰に聞いてるんだ)

表現も、ストーリーも、すごく意欲的でドラマティックでめちゃくちゃ面白かったよね~~~………残念ながら徐々に記憶が薄れつつあるが……。

ということでうろ覚え感想祭りです、マジでうろ覚え。

まず、本作の主人公が、『DAHUFA』の大護法みたいな達観した巻き込まれタイプではなくて、やりたいことや欲しいものが明確で行動力が伴っている少年だったのは、すごくアニメーションのダイナミズムに貢献していたよね。大人たちの諦念に負けずに、当たり前で大切な願いを一瞬たりとも手放さずに真っ直ぐ突き進んで、周囲さえ動かしてゆく姿に心打たれずにいられようか(反語)。この主人公の造形に監督の覚悟みたいなものが感じられたのも良かった。

それから、自然を搾取して恩恵を受けるのは富裕層で、それによる被害(洪水とか旱魃とか)によって生活を破壊されるのは貧困層である、ていう非対称や不公平が昨今の世界的な環境問題への取り組みにおける大前提なんだけど、それをサラッと物語世界の要素(というかサブテーマ?)として取り込んでてさすがにレベルの高いクリエーターは感性がフレッシュね、と思ったことです。

人間の経済活動による自然環境の破壊、先住民と入植者、技術革新による資本の偏りの加速、公権力と民間人、表現者と搾取構造、親子、師弟、友人、死と再生、様々な位相にある対立や相互関係を、善悪で判断することなく、でも常に抑圧される側に立って表現しつくしていてすごかったね。善や正しさや美しさが常に報われるわけではなく、混沌としてそれ故にエネルギッシュでときに残酷な世界。

で、そういう相対的に巡り移ろう世界の中で、確かなものは「愛」だろ!!っていうラストも良かったです。もちろん前作でもそういうスタンスではあったけど、明確にストーリーと台詞でそれを言い切ったところに、監督のクリエイターとしての矜持を感じる。

しかもあの最高に盛り上がったところでバシッと終わるところもめちゃ好みだった。そういうドライなセンスが好きだな!!

Cパート(エンドクレジット後のラスト)は、ほんのり寂しくて、でもちゃんと希望はあって、それは崩れたバランスを少しずつ回復するような気の遠くなるような営みのほんの最初の一歩なんだけど、本編では叶わなかった願いを掬いあげる試みでもあり、そういう手触りの確かな優しさが堪らんのよ。

キャラクターデザインも素敵だったね~。デフォルメされたシルエットだけでキャラクターが特徴づけられてるのは前作からだったけど、予算が増えたからか、動くとより特徴的で魅力的でしたね。マントとか髪の毛とか、帽子とかの動きがいちいちかわいい。白いふわふわちゃんは言わずもがな。人外のみなさんも印象的だったよね、可愛いのから気持ち悪い(褒めてる)のまで、動きもデザインも多彩で独創的で良かったな……(語彙力)。キビキビと気持ちよく動くところは、常に観客の気持ちや視線の少しだけ先に行って物語の推進力となり、見せ場は丁寧にたっぷり見せてその過剰さが心地よく、映画を観ている間ずっと目が幸福だった。アニメーションを観る楽しみってこれだよなあ!て思ったよ。

ちょっとだけ内容の具体的な話。

本作のクライマックスは啓蟄の夜って最初から提示されてて、それに向かって様々な思惑を持った有象無象が小さな港の村に集まってきてみんなの運命が変わっていく、ていうセミクローズドな構成だったわけですが。脚本が上手くないとカタルシスが中途半端になるリスクもありつつ、ハマれば最高の見せ場が演出できる手法で、話がどんどん錯綜していく中盤はほんの少しだけ大丈夫か…?て持ったけど完全に杞憂だった。

だんだん日が傾いて風が強くなって、空が雲で覆われて波が高くなり、雨が降ってきて、ていう背景がクライマックスへの助走となり観客を導いてくれるので、登場人物たちの焦りや畏れや期待や緊張の高まりに同調することができて、それであのとんでもない展開が来るから解放感も相まって本当に心を動かされたね。

単純に映画として面白いし、前作からさらに技巧を洗練しつつエンタメとして進化してる…!(しかもわたしの好きな方向に)と思って本当に観れて良かった!!てなりました。

本編の話ではないけど、イベント司会の若い男性が、終映後にぺそぺそ泣きながら壇上で喋っていたのになんか感動してしまった。自分は不思凡監督の作品だから信頼して観てるけど、他の若い人とかも面白いと思うのかな…?みたいな不安はあったからさ。隣の席の若い女性も、『DAHUFA』は観てないっぽかったけどリアクションが良かったので嬉しかった。良かった~~~(誰目線)。

こっから先は、ただの愚痴なので読まなくていいよ!

上映後に解説トーク付きの回だったのでそれも聞いたんだけどさ~~~アニメーションの技術的な話とかは面白かったけど、本作が劇場で上映されるかどうかは、今日の観客のみなさんが盛り上げられるかどうかにかかってるんで、みたいなことを言ってたけどそれはないだろうよ。

例えば監督とかの製作側がさ、「頑張って配給に営業かけるから皆さんも応援をお願いします」とか言うんだったら理解できるよ、でも君ら(登壇者)違うじゃん、買い手だし盛り上げる側じゃん???なに、自分らの業界に見る目や資本力が無いことを自白してるん???だいたい鑑賞手段のない映画を一般人がどうやって盛り上げろというのか。ふざけてんのか。

ロビーに出てからも、関係者っぽいおじ(い)さんが「ジブリじゃん!」って運営側の人に言ってるのが別々に二人もいて、観る目が無いくせに声だけでけーな!って思っちゃったよ。ジブリ以外のアニメ知らんだけだろ。ジブリは最高峰ではあるが最先端ではないからな。正直なところご老人たちの反応なんかどうでもいいしな、とか思っていたが、アニメみたいに賑わってるクリエーション畑でも決定権を握ってるのは中高年男性なんだねえ、というのが透けて見えてがっかりした。やっぱ描き手の売り手市場に甘んじて制作プロセスの養成を軽視したツケが来てるんじゃないの。知らんけど。

やだやだ、愚痴は良くない!

でもどんなにいい映画でも観る手段が無かったらどうしようもないじゃん!そんでそのわずかな可能性を観る目の無いおじ(い)さんたちに削られるのはイヤじゃん!!!うゎーん!!

ということで、『ストーム』観たよ!ていう覚書でした!記憶が曖昧になっているであろう未来の自分へ向けて、ね……。いや何とかしてどこかが上映権を買ってくれないかなあ??金なら出すからよ。けっこうマジだよ。貯金が足りるか知らんけど。

また劇場で観れる機会があったらみんな一緒に観てくれよな!約束だぞ!(未来の自分へ)(そればっかり言う)

では!!!

映画「落下の解剖学」はオチの詰めが甘いと思う

2月も終わりですね!!!

タイトルからもお分かりと思いますが、本記事はネタバレをします!!この後すぐにします!!未見の方にはおすすめしないよ!!!

言ったからね!?!?

はい!

『落下の解剖学』ですよ。海外での賞レースを賑わせ話題になったタイミングでの日本公開ということで、非英語圏の地味めの映画にしては観客がたくさん入っていてびっくりしましたね。東京ではもっと盛り上がっているのかもしれないが……。

で、ゴールデングローブ賞脚本賞を獲得したりしているので、脚本メインのミステリーなのか、と思っていたんですけど、それにしてはオチが緩くない!?!?!っていうことを言いたいだけの本稿です。

しかし思い返せば、登場人物のアップが多かったり裁判シーンもあんまりロジカルに詰める感じの展開ではなかったので、そもそも脚本ではなく演技や演出を観るべき映画だったのかもしれない。いやでもだったら脚本賞じゃなくない!?!(混乱)

何がいちばん気にくわないかと言うと、オープンエンドなのかどうかがはっきり分かんないところです!!!どっちだよ!!!

以下、具体的に説明しますので致命的なネタバレを避けたい人は気を付けてね!

作中における最大の謎ポイントは、男性の死が「事故」「自殺」「他殺」のどれなのか、っていうところだと理解しているのですが。で、現場の近くにいた盲目(弱視?)の少年が、死の瞬間を”目撃”していたかどうか、が争点になってたんですよね。直接証拠はない、という前提で

「他殺」の間接証拠は

 1-1.事件の前日も含め、以前から身体的暴力を含む争いがあった

 1-2.事件直前に少年に聞こえた夫妻の会話は怒鳴り合いであった

 

「自殺」の間接証拠は

 2-1.男性は以前から自殺を試みていた ※アスピリンの話

 2-2.生前に自殺を示唆する言動があった

 

だよね?

1-1はUSBに残された録音、1-2は少年の事件直後の供述(ただしのちに撤回する)がそれを示す。

2-1は妻の供述(と後から思い出した少年の供述)、2-2は後から思い出した少年の供述、が根拠。

回想シーンの映像については、裁判の最初の方で、少年の想像という体裁で「他殺」と「自殺(事故)」の両方が映像化されていたので、それ自体が(作中の)真実性を担保するものではないとする。

ということは、具体的な証拠が残ってるのって1-1だけ、次点で利害関係が薄い状態(まだ自分の証言が母親の有罪を決める根拠になると理解していなかった状態)で得られた1-2の証言、ということになりませんか。

2-1および2-2を示す少年の証言は、母親が「あと何をすれば無罪になれると思う?」と問いかけた後に得られたもので、その点においても信憑性は1-2の証言と比べて劣ると考えても良いと思う。

となると、作中では「自殺」で妻は無罪エンドだったけど、真実は「他殺」ではないか、という疑いが残る(なんかラストで少年がやたら怯えてたし…なんなんあれ)。

あとこの記事で指摘があるように、2-1を示す妻と子供のふたつの証言は、ちょっと矛盾するんだよね。この矛盾が脚本の瑕疵ではないとすると2-1は事実ではなく、やっぱり真実は「他殺(または事故に近い他殺)」なのでは?と考えるのが自然でしょう。

それで、なるほど真相は「他殺」なんだねって考えたとして、でも「他殺」が真実ですよ、という観客への目配せは特に無かったし(無かったよね?)、皆さんはどっちだと思いますか?みたいな問いかけも無かったし、オープンエンドなのか、真実はひとつなのか、脚本の意図がいまいち分からんのよねえ…(なので証言の矛盾が脚本の瑕疵に見えてしまう)。

それも含めて結論を宙吊りにするエンディングなのだとしたら、いやそれ面白いか?脚本家のひとりよがりじゃない?という話よ。そしてそういう意図が明確に伝わらないのは脚本の弱点だよ。

あとオチが甘いと思った理由は他にもあって、謎を作り出したのは少年の視覚障害なのに、無罪の決め手になる証言には視覚障害がぜんぜん関係ないというのは明確にプロットの欠点だろうよ、と思ってさ。だってそのせいで、この映画の中では視覚障害は夫婦仲を険悪にして父親の死の遠因になり、さらに死の真相を覆い隠すだけの役割を負わされていて、ものすごくネガティブな位置づけになっちゃってるじゃん。単純化すれば、「子供の視覚障害のせいで家族の人生がめちゃくちゃ!」みたいな話になってるよね?それをリカバリーするのが障害を持つ子供本人、ていうのが変だし。まさか21世紀にもなって製作陣がそんな話をやりたかった訳ではないだろうから、そう読めてしまうのは明らかに作品の欠点でしょう。

オチ以外のところだと、普段の夫婦仲がどうだったかを争点にするなら、あのシッターの女性にも証言させるだろうにそれは無いんだ…とかさ。そもそも、あんな間接証拠だけで検察が有罪を狙うかなあ…とか。妻の性的指向を観客にだけ途中まで隠してたのはあんまり意味ないのでは…とか。

まあだから本作の美点は脚本じゃないと思うんだよね…脚本賞に期待しすぎかなあ??例えば主演女優賞とかだったらなんも異論はないよ、この映画のすべてを(画面に映っていないときでさえ!)支配していたサンドラ・ヒュラー、すごかったね!彼女の演技を観るために観る価値は十分にあります。

しかし同じ意地悪なフレンチミステリーだったら、『悪なき殺人』のほうがストーリー上のカタルシスはあったよな!!!意地悪なミステリーあんまり好きじゃないから別に好きなわけではないけど!!(感情の昂りにより文章が乱れています)「ああ~~~そう来たか~~~後味わる~~~」みたいなね。

意地悪っていうのは、人間の人間性みたいなものを全く信頼してない感じね。ヨーロッパのミステリーでありがちな印象です(偏見)。

ということで、『落下の解剖学』の悪口でした!面白かったけど好きではない!そういうこともある!!

では!!

2023年、映画館で観た旧作映画の話

まだ2023年の話をしてるんですか???はい……

映画館で観る旧作映画、いいですよね!にわか映画ファンなので、「これは観とけよ!」みたいな感じでありがたいです。まあ「午前10時の映画祭」という歴史の長いイベントもありますが、あんまり近場でやってないのと、タイミングが合わないんだよね…。

やっぱり時間の流れに耐えて評価されている作品というのはそれぞれに見応えのあるものばかりで、映画館で観る、という鑑賞体験も含めて良い経験になりました。ということで、感想というかメモです。

■今さら観てないとは言えないシリーズ(※個人の見解です

ラストエンペラー
戦場のメリークリスマス
さらば、わが愛 覇王別姫

観たことなかったんですか!?そうだよ!!!

三作とも、映画館がめちゃ混んでてビビりました、若い人と年季の入ったシネフィルが半々くらいだったかな(確かどれも土日に観た)。中高年2~3人組のマナーの悪さも際立っていたな…なんか20歳前後の若い人たち、たぶん特にこういう特集上映をやっている独立系映画館に来る人たち、めちゃくちゃ静かに観ててびっくりするよね。上映開始前は売店などで楽しそうにしているが、始まってからは存在を忘れるほど静か…。それに引き換え、中高年の我慢の利かなさときたらもう、ここはお前の家か?っていうね。若い人はもうちょっとリラックスしてもええんやで、ですが中高年シネフィルには、お前は何度目かの鑑賞かもしれないがこっちは初見だぞ、です。めちゃくちゃ遅れて喋りながら入って来る、興味ないシーンでスマホ見る、エンドロールでスマホ見ながら喋り出す……、ええ加減にせえよ。そんなんだからシネフィルはライト層に嫌われるんだよ(知らんけど)。

閑話休題

ラストエンペラー戦場のメリークリスマス、映画界に坂本龍一の名を知らしめた2本が奇しくも2023年に劇場公開されてたんですねえ…R.I.P. たまたま、2本とも訃報を聞く前に観ていて、すごく現役っぽい印象が残っていたので、ニュースを目にした時には本当にびっくりしました。2023年は『怪物』もあったしね(感想はこちら。褒めてない)。

先日、機会があって坂本龍一氏の現代音楽…というかメロディの無いタイプの純粋音楽を解説付きで鑑賞したんですけど、そういうこともできる人が作り出すリリカルなメロディがたまらんな、という感想でした…(自分、音楽の素養が無いので)。(ところで今、坂本龍一のドキュメンタリーRyuichi Sakamoto: CODA』を観ながらこの文章を書いていますが、映画製作の現場がめちゃくちゃで震えるぜ…)

ラストエンペラーはすごく溥儀に同情的だな、と感じたんですけど(そりゃそうだろ、とは思いつつ)どういう文脈で理解すればいいのか迷ったな。史実からの改変部分の意図とか。しかしとんでもないリソースのパワーを見せつけられて大満足です。アカデミー賞を席巻したのも納得だよ。そしてこういう欧米資本との合作映画はしばらく(もしかしたら二度と)作られないかもしれないね。そういう意味でも、何かとんでもないものを見せられている、という感覚がずっと続く作品でした!

さらば、わが愛 覇王別姫はね~、これは好きなやつでしたね!激動の近現代史とそれに翻弄されつつもしぶとく生き抜く人間の群像劇、媒体を問わず大好きなので…。隅々まで監督の美意識に貫かれた美しく力強い画面の中で、己の運命を生きる人々。どうしても手放せない愛。壊れて失われたものは二度と戻らず、すべては流転し、最後に残るのはただ自分の命だけ…。レスリー・チャンについてはのちほど!

■久々に観て面白かったシリーズ

氷の微笑
バッファロー'66』

両方とも年齢制限ぎりぎりの高校生くらいのときに観てるんですが、やっぱ子供には難しかったようだな!!再鑑賞により名作たる所以が分かった気がする!これが大人の階段!!

氷の微笑は、あの超エロい着替えシーンは鮮烈に覚えていたが、他はなんか普通のサスペンス…?みたいな印象だったんですが(子供だからね!)、改めて観ると、こういうストーリーでヒロイン(?)の女性を理解を絶する怪物みたいなキャラクターにせずに、むしろ美しくて強くて一途な可愛い女と思える余地を残すの、すごい面白いし今でも新鮮だよね!?ポール・ヴァーホーヴェン監督の最新作『ベネデッタ』がたいそう痛快で楽しかったので、ではせっかくなので観に行くか…、て行ったので大満足です!あとサスペンスの撮り方が上手い、ぜんぜん普通ではない。

それとちょっと思ったのが、パク・チャヌク監督の『別れる決心』の海のイメージって監督が言ってる以上に本作の影響を受けてる気がするな、ということです。大衆が共有するイメージを利用してる、ってことなんだろうけど。

バッファロー'66』は、初見では「なんじゃこりゃ…」ていう感想だったんですが(子供だから!)、大人になったいま観ると、ままならない人生の苦さと、奇跡みたいな出会いのきらめきがハートに沁みますね…。まあ主人公はそこそこクズだと思うがな!ヴィンセント・ギャロのその後の歩みを思うと余計そう感じてしまう。あと食卓シーンがあまりにも小津映画構図(だよね?)。ラスト近くのフラッシュフォワード演出も面白かったけど、あれは明確な先行作品とかがあるんだろうか。いまの映画やドラマでも時々みかけるよね。

ところでヒロインのレイラ、もしかしてストリップダンサー(またはその見習い)なのではないかと思ったんですけど、どうでしょう。解説とかでもレイラの背景に触れてるのあんまり無いから分かんないけど。

■邦画!初見だよ!

スワロウテイル
『我が人生最悪の時』
『遥かな時代の階段を』
『罠 THE TRAP』
『鉄男』
東京ゴッドファーザーズ

未見の岩井俊二監督作品、うっかり好きになるかも…などと恐れおののきながら観に行ったスワロウテイル、いやあ~思春期で観てなくてよかった!!あぶなかった!!!こんなの……こんなの十代前半で出会っていたら、狼朗(演:渡部篤郎)にスっ転んだ挙句、その後に出会う創作キャラの全てに狼朗の影を追う羽目になっていたと思うわ!あと人によっては劉梁魁(演:江口洋介)に転がり落ちると思います、友人と袂を分かつ事態に発展したかもしれない(そんなに?)。”円都”の設定とそれを支える美術仕事が素晴らしく好みだった、ていうかこんなのみんな好きじゃろ!?!?

あと岩井俊二作品では、基本的に女の子たちの願いはみんな叶うんだよね。そこが一番のファンタジーで、好きなところ。

で、濱マイク3部作!これもねえ~~うっかりマイクのチンピラ風ブランドファッションにかぶれかねない時期に観てたら危なかったね!!!まあ自分に着道楽の人生があったかもしれないと思うとちょっと惜しいが…。いやあれは永瀬正敏の品の良さあってこそのお洒落なのであって、一般人が迂闊に真似をすると大怪我のもとである。

たぶん林海象監督の作品を初めて観たのですが、3作とも観客の安易な消費を許さない、挑発的な作品で面白かったです!特に3作目『罠 THE TRAP』は、前二作で作り上げた作品世界を自ら叩き壊すようなつくりで、安直な大団円だけを求めると痛い目にあうよ、っていうね。これが作家性というやつだろうか。

『鉄男』はですね、これはなんと、台湾は新竹市、日本統治時代に建てられた築90年の劇場で観たんですよね……作品の内容と併せて忘れ難い鑑賞体験となりましたね……(いま確認したら2023年8月で営業終了していた、ウソでしょ)。外がスコールの土砂降りで、自分は足元とか肩からびしょ濡れで、半円形の舞台の奥にスクリーンがあってそれを見降ろすように客席が取り囲んでいて、暗くて広い空間にあの金属音が響きわたる…!なお観客は自分含めて二人でした(怖すぎて頭を抱える)。そもそも身体変容系のホラーは苦手なのに初手からがっつり人体と金属が融合するし、謎の体液とか汗とか血で画面内はずっと湿ってるし、悪夢みたいな不安定で断片的な映像がすごい密度で続くしで、ちょっとヤバかったです。まあ本作を今回以上の(ある意味で)過酷な環境で観ることはもう無いと思うので、良かった、かな……………。

東京ゴッドファーザーズ今敏監督の作品は10年以上前に観た千年女優以来なのですが、絵が綺麗で創意工夫に満ちているのに比して、女性観や家族観があまりにも旧来の家父長制や保守主義そのものでちょっと無理だった……。なんかクリスマス映画のカテゴリでレコメンドされる機会が多いイメージの本作、個人的には年末年始みたいな時期に家族で観るのはおススメしないな……辛い気持ちになりそう。

■続☆ウォン・カーウァイ祭り!

『若き仕立屋の恋 Long version』
楽園の瑕 終極版』
欲望の翼
いますぐ抱きしめたい

なぜ「続」かと申しますと、2022年に恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』『2046』を観て(初見!)、他のも観れるかな~とぼんやりしていたら2023年も映画館で上映してくれてありがとう、だからです。これでウォン・カーウァイの初期作品はすべて映画館で初見だったことに…!嬉しい!!というか、映画館である程度集中して観ないと自分には良さが理解しにくい系統ではあるのよね。特に恋愛関係が全く分からん場合があり(いつからこの二人が付き合ってる?んだっけ??みたいになる)、あと画面が美しすぎてそっちに気を取られて、ストーリーについていけなくなるんですよね。困ったね(※2022年も同じことを言っていた)。

2023年は、レスリー・チャンという俳優について、熱狂的なファンがたくさんいるのは知ってたけどあんまりピンと来てなくて、しかし代表作を続けて観るとさすがに”理解”が捗った、この人はヤバい…!となった年でした。今さら。近づく人間すべての人生を狂わせる、強烈な磁場みたいな魅力を持った人なんだね。そしてその磁場のせいで、自分自身の進む方向さえ見失ってしまうような危うさも、その魅力には含まれているわけですが。こんな人に出会ってしまったら、幸福になるのが難しそうだね!

それでですね、自分的には欲望の翼アンディ・ラウが良かったです!アンディ・ラウも今までは顔がいいな~くらいの認識だったんですが(最低の感想)(主演作だと墨攻』『インファナル・アフェア』『名探偵ゴッド・アイ』は観たことある)、いやもちろん顔はいいんですが、恵まれた身体性に裏打ちされた圧倒的な陽の気と、才能と技術の結晶である繊細な芸術性のマリアージュ?が素晴らしかったです。ブエノスアイレスにおけるチャン・チェンみたいな役回りなんだけど、そういう、主人公たちの心を遠くに連れ出してくれるキャラクターの良さ、物語の中に涼やかな風が通る瞬間みたいなものが、ウォン・カーウァイ作品の好きなところです(ロマンスが分からないから……うぅ)。

■インド映画は別記事で!

『WAR ウォー!!』
『バンバン!』
『ヤマドンガ』

■そういえばポストカードを頂いた企画「12ヶ月のシネマリレー」

カラヴァッジオ
薔薇の名前
『左利きの女』
『ことの次第』
裸のランチ

2022年から開催していた「12ヶ月のシネマリレー」というリバイバル上映のプロジェクトで観たやつです。12作品のスタンプラリーがあって、コンプリートすると参加賞と抽選プレゼントがもらえる企画で、12作品計24枚組のポストカードを頂きました!やったね!実はラストエンペラーもこのシリーズでした。しかしそれ以外は、こういうレコメンドが無かったらおそらく観ることは無かったであろうラインナップで、とはいえ評価が定まっているだけ合ってさすがにクオリティが高く、映画の世界の広さを再認識したのでした(なんだその感想は)。画力(えぢから)の強さにビビっていたらエンドロールまでヤバかったカラヴァッジオ、これがみんなが言ってる無限の図書館と読んだら死ぬ本か~!てなった薔薇の名前、クローネンバーグのそういうとこが苦手だよ…って感じの裸のランチ…。

いや~、映画って本当にいいものですね!!!

■その他(その他とか言ってごめん…)

バニシング・ポイント
フラッシュ・ゴードン
エドワード・ヤンの恋愛時代』
ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ
ギルバート・グレイプ

なんか有名なやつだから観ておこうかな!って観に行った作品たちです。インターネット有識者のみなさんには頭が上がらないね!!!

アメリカン・ニューシネマ、分からぬ…と思いながら観たバニシング・ポイント、ここではないどこかを求めるロード・ムービー的な要素や、現実社会への諦念と嫌悪、硬直的社会構造からの離脱、それらを装飾するストーリーやキャラクターを極限まで削り取ったミニマムで鋭利な映画でした!この世界から脱出した主人公は、観客を置き去りにしてどこまでも走り続けるんでしょうか…。

フラッシュ・ゴードンキッチュでゴージャスな美術や衣装を中心に大変楽しみましたが、異星人の結婚式に結婚行進曲が流れたところでさすがに爆笑した、しかもアレンジがやたらかっこいいし。なんか愛されるの分かるよ、クイーンの音楽は華やかで素敵だしね。

エドワード・ヤンの恋愛時代』、こちらは台湾ニューシネマですね。エドワード・ヤン監督作品ははじめて観ましたが、いや、オシャレね…(圧倒)。公開直後の監督インタビューを見つけたので読んでみたのですが、外省人であり母がクリスチャン、自身は大学でアメリカに留学していたという経験が、間接的ではあれこの映画の登場人物たちにいろいろな形で投影されているのかなと思いました。

ジェイソン・ステイサムガイ・リッチーのデビュー作!?ということで観に行ったロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ、二人ともブレないねえ~~~!!!君たちは死ぬまでそのままでいてくれよな(知らんけど)。個性的な俳優陣を活かす凝った脚本、そしてスタイリッシュなのに治安が悪い!!ていうかロンドンは賢い悪党の巣窟だな…(偏見)。

なおギルバート・グレイプについてはこちらで散々自分語りをしたので…はい…。

アートマンの名作たち!感想メモはこちら
ウォレスとグルミット
「チーズ・ホリデー」「ペンギンに気をつけろ!」「ウォレスとグルミット 危機一髪!」「ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢」

ひつじのショーン
「映画ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~」「映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!」「ひつじのショーン クリスマスの冒険 劇場公開版」

書きながら思ったんですけど、なんで全部の感想を書こうとしたの!?!?大変じゃん!?

ということで、ちょっと息切れ気味の旧作感想でした!どこで息切れしているか探してみよう!…。旧作で珍しいやつはともかく、配信とかで気軽に観れるのもけっこうあるんですけど、映画館で観ると作品に集中できるのがいいよね、と思いました。特に旧作は、テンポがゆっくりだったり耳馴染みのない単語が出てきたり、あとは自分にとってのフックがどこにあるか分からないから、家で迂闊に観ると上手く咀嚼できない場合があるんよね。

しかしさすがに3年で1000本近くの映画を観ると、映画を観る基礎体力みたいなものが付いてきた感覚があります。小説とかでもそうですが、自分みたいな普通の人はいきなり古典作品に触れても楽しめないじゃないですか。だから古い映画を観るのは(選ぶのも)難しさがあると思うんですけど、だいぶそこらへんが大丈夫になってきた。とはいえ、今のところは50年前くらいが限界です。

2024年も引き続き、機会を積極的に活用して映画館で旧作映画を観たいと思います。なんか教養主義っぽいな!

では!!!!

2023年、映画館で観た海外アニメ(広義)の話

※本稿は大晦日に書き始めたためテンションがわやです※

 

年が明けたーーーーーー!!!!令和6年!?!?誰に断って!?!!

ところで2023年、海外アニメ!!!めちゃくちゃ観た!!!!太字のタイトルだけでも観てって!!!(なんの必死)

もう個別の感想を書く余裕はないが、アニメーション表現の豊かさをこれでもかと見せつけられて最高の気分だよね!!!なお国産アニメはマジで観とらん、もう文脈とか表現技法が先鋭化しすぎてちょっとね。あとマンガ原作ありのアニメ、苦手なんよ。台詞とか間合いのテンポが合わなくてさ…。といいつつ巨匠の引退アニメと砂漠の戦車アニメと国民的テレビ人の自伝アニメは観ました。

閑話休題

ということで海外アニメ花盛りでした!たくさんあってちゃんと書けるかわからんが、頑張ってみますよ!!

最近?なのかなあ、ストップモーションアニメの野心的な作品がいろいろありましたね。デジタル全盛の時代に手仕事の可能性を探る、みたいなね。スタジオライカがあらゆる意味での先頭を突っ走っていた印象がありますが、今年はそれ以外のスタジオからの作品がいろいろありました!

例えばギレルモ・デル・トロピノッキオ』、特撮を愛してやまない監督だからむしろ納得感のある選択肢だったストップモーションアニメという表現技法。独特のデフォルメが効いたキャラクター造形と、背景美術などの細部へのこだわり。ファシズムの暗い影が色濃いストーリーの再解釈と併せて、さすがに唯一無二の世界を形成していた。

で、ストップモーションアニメで忘れがたいのが、恐るべき技術を注ぎ込んで撮られたであろう『マルセル 靴をはいた小さな貝』ですね!ストーリーも素晴らしかったんですけど(多様性の尊重、立場を越えた友情、家族の絆と個人の生き方を区別するやり方について、SNSとの付き合い方!など)、いやどうやって撮ってるの!?ってなりましたね!技術もテーマも最先端かつ普遍性があり、賞レースを席巻したのも納得だよ!!残念ながらパンフレットは無かったんですけど、元がインディーズで製作された短編作品なのでYouTubeメイキングやインタビューなどいろいろありました。いや、ちょっとこれはすごいですよ。映画館で集中して観るのももちろんよかったですけど、家でパーソナルな雰囲気で観るのも味わい深くてよいと思うので、観れる人はぜひ観てください、年末年始の(人付き合いに)疲れた心に染みるんじゃないかな……。

テレビで、エストニアストップモーションアニメ制作スタジオのドキュメンタリーを観ていたら、デジタルカメラの出現が作品制作に対してかなりのインパクトだったという話が出てきて、デジタル機器ありきのストップモーションアニメ技術が成熟してきた頃合いなのかな~と思ったりしました。

ストップモーションアニメみたいな、ある意味でアナログな手法と一線を画す、2D⇔3Dアニメの隆盛もすごかったですね!デジタル作画の技法が進化しまくって、イマジネーションの向こう側に連れて行ってくれるような作品が複数あってびっくりしました!

まあ今年の海外アニメで外せないのはスパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ですよね。これに異論はなかろうよ。2018年の前作も復習のために見なおして、いや充分すごいが!?と思ったところにとんでもねえ新作だったのでいや~…言葉を失うわ。もはや2Dと3Dの区別に意味は無いな、と思わされた一本でもあります。しかしほぼ3時間の長尺で広げまくった風呂敷をまったく畳まずに「続く…」ってなったのはさすがにビビった、おかげで年ベスに入れられなかったじゃん…。

同じ系統のアニメで、続編とはいえほぼ独立系の長ぐつをはいたネコと9つの命』も素晴らしかったですね!ピカレスクアクションものということで、2022年の『バッドガイズ』の進化形っぽい雰囲気が楽しかった!!絵や動きの情報量の取捨選択のセンスが抜群で、レトロっぽいイメージと最新型アニメの融合が果たされていた気がしますね。

…とか言って満足しそうになっていたところへ現れたミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』ですよ!タートルズには特に思い入れが無いのでスルーしようとしていたが、なんか評判が良さそうだったのでぼんやり観に行ってひっくり返りました!ていうか10代の少年たちが何かを成そうとする姿に胸打たれない筈がなく、なんですけど、彼らの活発な好奇心や世界への興味がそのまま映像になったような、賑やかで目まぐるしくて親密な、とっても楽しいアニメーションでした。あとストーリーはなんか前半で普通に泣いた…動物と子供に弱いんだってばよ。

次は上記の大作アニメとは全然別の方向性で度肝を抜かれた2Dアニメたちの話!

まずは『プチ・ニコラ パリがくれた幸せ』です!フランスのアニメ界、ものすごく充実してるよな…本作はそのクオリティで本邦の観客を黙らせた神々の山嶺のプロデューサーが監督の一人として参加しております。プチ・二コラはフランスの児童文学に出てくる人気キャラクターで、その生みの親である二人の作家の物語をアニメにした作品ですね。ちょっと説明が難しいんですけど、原作の鉛筆絵の線、水彩絵具のにじみまでがそのまま動き出してて本当にびっくりした。え、その絵が動くん!?ってなってさ。二人がなぜプチ・二コラというキャラクターを生み出し、どのように育てたか、それには二人の来し方が密接にかかわっていて、映画としてはほろ苦くて優しい友情の話なんですが、その雰囲気に水彩のペン画や鉛筆画がピッタリで、ものすごく洗練されていて素晴らしかったです。

フランスのアニメ、作家や作品の個性が強く出ていて、なんか日本の漫画とバンデシネの違いみたいなのがそのまま日本とフランスのアニメの違いみたいになってるなと思いました。フランスアニメの現在の隆盛にも理由があって、2000年代初めに国のプロジェクトとしてアニメーターや監督、プロデューサーの養成を始めてるんですよね。アニメ制作のプロセス全体を視野に入れる辺りがさすが文化大国の実績を感じるな、と思う次第です(翻って本邦……アニメ制作については全くの門外漢なのでここでは踏み込まないが…)。

続いては同じくフランスの大御所による『古の王子と3つの花』!あの~、ミッシェル・オスロ監督の作品を拝見したのは初めてなんですけど、なんぞこれ!?ってなりましたね!!(見聞が狭いからそんなのばっかりだよ)いやほんとに…、静止画も十分に、どうしようもなく美しいんですけど、それが煌めきながら動いて物語を語るんですよね…こんなのどうやってディレクションするん!?っていう疑問と驚きが最後まで途切れることなく、物語の抽象度の高さも併せて、すごい重厚な鑑賞体験でした……ほとんど美術工芸品のような映像世界であった。マジで気合入れて体調を整えて、観て……。

2Dアニメの可能性もまだまだ未踏の地がありそうだな、とか思っていたら年末になって南米はブラジルから飛び込んできたのが『ペルリンプスと秘密の森』です!後期印象派を思わせる鮮やかで自由で伸びやかな背景美術に、プリミティブでちょっと不思議なデザインのメインキャラ二人(二匹?)、飛び回る鳥や小動物、うごめく植物の影。その中で揺蕩うように二人と同じ道をたどるうちに見えてくる、世界の秘密。現実の世界を対立と分断が覆うこの時代に、思いもよらないやり方で真っ直ぐなメッセージを描いて、本当に心を動かされました。これもアニメーションならではの表現であり物語なんだよなあ!美しくて目に楽しくて、アニメってすごいなあ~って観てたらとんでもない剛速球のストレートを投げ込まれて打ちのめされたよね。現実を変えようという覚悟を決めた表現者の迫力を感じました。

さてたぶん都会では2022年にはすでに話題になっていた中国発の3Dアニメ『雄獅少年 ライオン少年』をようやく観たのも2023年でした!王道スポ根青春ストーリー!…なんですけど、普通に思ってたより遥か遠くまで連れて行かれる繊細で大胆でリアルと向き合った展開に震えがきますよ!前半ですでにボロ泣きしてたんですけど最後まで泣かされたわ…本当に熱くて、切実で、前向きで、優しくて、強靭な夢や願いを真っ直ぐに追いかける少年たちや周りの人々の姿が、いつまでも心に残る素晴らしいアニメでした。アニメーションそのものも尋常でないクオリティで、圧倒されっぱなしだったね。終わり方の潔さは貫禄さえ感じました。やっぱり社会の勢いがあるところはすごいねえ…。

ちなみにアニメーションの枠に入れていいのかどうか迷うところだけどかといって他に適当なカテゴライズも難しいストップモーションアニメ、『オオカミの家』の話をば。自分は地方都市の主要駅ちかくの映画館で観て、客の入りは3割くらいでさすがに多いな、と思ったんですけど、東京のほうでは満員御礼が続出したそうじゃないですか!?ちょっとみんな大丈夫!?みんなの精神状態がちょっと心配だよ!?ってなりました……いやとんでもなかったな……現代美術のインスタレーションなら数分で離脱できるけど、この悪夢が立体化したような映像を80分も身動きできない状態で観せられるの、かなり厳しくない!?!?映像もすごいが音響もなかなか圧がすごくてほとんど暴力的でさえあった。いや~、しんどかった~~~~。まあ元気があるときに観たらいいんじゃないかな……。

こうして並べて観ると、色んな地域の色んなアニメが観れたなあ~!!っていうありがたみをひしひしと感じる!!配給会社のみなさま、映画館のみなさま、本当にありがとう!!!

あとはなんか『ひつじのショーン』と『ウォレスとグルミット』の長編シリーズのリバイバル企画をやってたのでちゃんと観たよ!『ウォレスとグルミット』の『ペンギンに気をつけろ!』『ベーカリー街の悪夢』は初見だったんですけど(たぶん)、すげえちゃんとしたクライムサスペンスでびっくりしたね!っていうか犯人たちがガチで邪悪で怖かったわ!!プロットも伏線も複雑だったしオチもブラックだし、けっこう大人向けだよね???『ひつじのショーン』シリーズが子供むけだから油断してたのが悪かったよ、ごめんよ…(?)。ウォレスが惚れっぽいのはグラナダ版ホームズのワトソン博士のキャラクターからだろうか、と思ったけどそうするとグルミットがホームズかつハドソン婦人で八面六臂の活躍がすごい。いやもう犬じゃなくていいだろ。

実は『ウィッシュ』も年末に滑り込みで観たんですよ、まあディズニー本体のあれこれは気になるところではありますが…。ヴィランの造形がすごく現代的で、現実世界で言うと狭義の為政者にとどまらず、巨大グローバル企業のトップとか世界的なインフルエンサーとかでも当てはまりそうな”悪”を告発していて興味深く感じました。でもこのヴィランの何が悪いか分からない、という感想もあるらしいが…(自分が見聞きしたわけではないので何とも言えないけどさ)、そんなわけなくない?っていうね。

はい!!

というわけで全然まとまりませんが2023年に観た海外アニメ映画の話でした!!バラエティがすごい!!!それにアニメーションでしかできないやり方で、現実の課題や問題をどうやって描写し、伝えていくか、という問題意識を感じる作品ばかりでした!!アニメという表現技法の可能性についても盲を啓かれる思いです。

引き続き、2024年も良い出会いがありますように!

では!!!

2023年、映画館で観た新作映画のベストを考える

 

今年の感想、今年のうちに!!!!!ってことで映画館で観た新作映画144本(たぶん)から選んだ20本を置いておきます!!

所感はあとで書き足す!

観た順、順位無しですよ!選んだ基準は、映画館で度肝を抜かれてそのまま魂が戻って来てないやつです。

まず10本!!!

フェイブルマンズ
★ ベネデッタ
EO イーオー
TAR/ター
マルセル 靴をはいた小さな貝
★ 大いなる自由
★ ウーマン・トーキング 私たちの選択
君たちはどう生きるか
★ ヒンターラント
ロスト・キング 500年越しの運命

 

次点の10本!!!

アラビアンナイト 三千年の願い
ガール・ピクチャー
プチ・ニコラ パリがくれた幸せ
雄獅少年 ライオン少年
古の王子と3つの花
★ 君は行く先を知らない
★ キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
アダミアニ 祈りの谷
★ ファースト・カウ

 

取り急ぎ、では~~~!!!

こっから先は年明けの加筆だよ!

改めて見直すと、自分のヘキが強く出たラインナップですね…なんか恥ずかしくなってきた。まあ個人の年ベスなどそんなものでしょうが。

個別の(でもないけど…)感想があるやつはリンクを張ってみました。年末に滑り込みで書いたのもある。それ以外のでメモ程度に感想を残しておきますねっ。

マジでぶちあがる『ベネデッタ』!これは同じポール・バーホーベン監督の氷の微笑を20年振りくらいに観て、ブレねえなあ~!と思ったことも入選の決め手ですね(?)。女性がとにかく強くてエロくて美しいところとか、理性のタガが外れたようなめちゃくちゃな人間性を扱っているのに、突き放したような理知的な印象を受けるところとか。バーホーベンの女たちは原作ナウシカクシャナに贈られた「血がそなたを清める」っていう言葉が似合うね!

1994年まで男性同性愛が刑罰の対象となっていたドイツで、愛を求め続けた男の20年間を描く『大いなる自由』セバスティアン・マイゼ監督のインタビューでほぼ全てを言い尽くされているので読んで…(ラストまで言及があるので、すでに観た人またはそういうの大丈夫な人向け)。

恐怖だけでなく親密さを増幅する暗闇、それを照らす煙草の灯、冷たい寝床と人間の体温、命を燃やすように、愛する人を強く抱き締める腕の感触。五感のすべてで語り掛けてくる映像や音の表現が鮮烈でした。刑務所内という、抑圧された限定的な空間の中で、あらゆる手段を講じて人間同士の繋がりを求める人の姿が痛々しくしかし強烈な光を放ち、観客の心を射抜く。その果てにある、ラストの選択。エンドロールに入ってからもちょっと放心してしまった…。

2023年初めにアカデミー賞脚色賞を受賞したことで話題になった『ウーマン・トーキング 私たちの選択』、7月に入ってからようやく観れたんですけど、期待と話題に違わぬ力作でした!

閉鎖的な環境で、組織的な暴力と搾取の被害を受けた女性たちが、今後の身の処し方、加害者との関係について話し合うという、地味といえば地味な映画だったんですけど、その対話の射程がとてつもなく遠く、広く、深くて圧倒されましたね…!

結論を出すまでのプロセスや中心的メンバーのキャラクター設定もすごく興味深いし、そもそも女性だけの対話劇っていうのがとても新鮮で、実力のある俳優たちの演技を堪能できたのも良かった。

本当に隅々まで考えられた脚本や演出で素晴らしかったのですが、個人的に最も印象に残ったのは、対話の場そのものへの信頼をどうやって醸成し、維持するかという共同的な営みが、様々なレベルで、意識的、無意識的なものの両方が、たくさんあったなあということです。話し合いをすればより良い結論を得られる、という前提を全員が共有しないと対話って機能しないじゃないですか。でもそれってけっこう脆い、というか自動的に生じるものではなくて、参加者の不断の努力によって成り立つものですよね。本作でも何度か対話の場が揺らいで消えそうになるけど、メンバーのそれぞれが様々なやり方でその場に留まることで、場の強度が増していく。それが対話に参加するということなのですよね。意見を述べるだけが対話への参加のやり方ではない、そして、そういう参加者もきちんと尊重される場であることが、大事なのだと。

まるで演劇の舞台みたいに始まって、話し合いの進展につれて世界の奥行きが増していく映像的な仕掛けも美しかった!この作品は映画館で集中して観れて本当に良かったです。

君たちはどう生きるか、英語吹き替え版が観たいな~~~!!!

いやもう宮崎駿が元気いっぱいで何よりだよ、ていう気持ちで胸が熱くなりましたね…作品の感想ではないですが…。わたしは宮崎駿を過剰摂取して生きてきたので、人格形成に影響を受けすぎて、一本の映画としての感想があんまり出てこないんですよ。ちゃんと公開初日の初回に観たからね。宮崎駿の新作を映画館で観れる機会なんてもう無いかもしれんしさ。

パンフレットとは別に10月頃?に発売されていたガイドブックのほうがとても充実していて良かったです。主要キャストへのインタビュー、スタッフの対談、宮崎駿の証言(?)、場面画像もたくさん!なんかこのガイドブックの出たタイミングとかグッズの発表とか眺めてると、10月に全世界同時公開するという方針もあったんじゃなかろうかと思いますね、真相は知る由もないが。というか逆に、世界公開のためのプロモーション戦略のひとつが日本先行公開だったのか。熱心なファンや報道関係者は海外からでも勝手に観に来るもんな…。

しかしあんなに事前情報の無い状態で映画を観れたのは非常に貴重な経験であった。鈴木Pの手のひらの上でなすがままである。

とか書いていたらゴールデングローブ賞のアニメ部門で受賞したじゃん!!おめでとう宮崎駿!死ぬまで絵コンテ描いててくれ!!!(厄介ファン)

オーストリア映画『ヒンターラント、タイトルの意味は「後背地」だそうです。これはねえ、もうルックスが好き過ぎた!第一次世界大戦後、ロシアからの帰還兵が遭遇する悪夢のような連続殺人事件。帰還兵たちの心的外傷をそのまま投影したような、歪な景色、昏い迷宮のような街並みに、彼らの苦しみを刻みつけるような血塗れの惨劇。

ドイツ表現主義を意識したという絵画のような背景美術と、傷ついた人間を演じる俳優が見事に調和していて美しくて残酷で素晴らしかったです。全編ブルーバック撮影というのを知ってから観たんですけど、フルCGならではの表現もありつつ、いやホントに?と思わせるクオリティでした。いや最近のカメラは優秀だから、ドラマとか映画でもセットか野外かほぼ分かるじゃん。本作は言われても分からんレベルだった。ライティングやカメラワークや空気の流れの作り方(?)にめちゃくちゃ工夫があると思う。監督のインタビューとかを読むと、撮影完了後の作業にものすごく時間をかけたと言っていたので、そうだろうね…、とか思いつつ、しかしこの手法ならではの世界観を見せてくれて大満足ですよ。これたぶん、『マルセル 靴をはいた小さな貝』でも同じような方向性の技術が駆使されてるんだよね。(おそらく)ぜんぜん関係ないところでこういうシンクロを見つけたりするのが新作映画を追いかける面白さではある。

ところで、全編ブルーバックでフルCG背景でも本作のようにリッチで見どころの多い画面をつくれるということは、本邦のドラマや映画において背景やセットの安っぽさが気になるのは、ロケやセットの規模の大小の問題ではなく単にディレクションの技術力が無いだけなのでは、っていう気付きがあって悲しくなった。

イラン映画『君は行く先を知らない』、こちらもすごかったです!巨匠、ジャファル・パナヒ監督の長男であるパナー・パナヒ監督の長編デビュー作だそうですが、すでにベテランの風格!二十歳前後の長男、幼い次男を連れた四人家族の車の旅。広々とした風景の中をゆく旅路の行き先は、幼い次男と観客だけが知らない。でも本当は、この映画のラストシーンの後にどこへ行きつくのかは、家族四人も、この映画を撮っている監督でさえ、分からないんですよね…、イランの、そういう状況をパーソナルな物語に仕立てて普遍性を獲得している脚本も見事です。家族の親密で何気ない会話で進むストーリー、ロングショットを多用した瑞々しい風景の中で鮮やかに浮かぶ人間模様、観客を物語に引きずり込む長回し、そういう要素が、(若い監督が家族や故郷のことを撮った作品ということも含め)『春江水暖』を思い出させました。

どこへ向かっているのか分からない初見も良かったですが(観客の不安と緊張に唯一寄り添えるはずの状態である何も知らない次男が、全然そんなキャラじゃないのがまたいい)、ラストまでの展開を知ってからもう一度観たら、この顛末をある程度は予測している両親や長男の、口に出せない別れの言葉や、言外のいたわりや慈しみ、焦燥や不安、ささやかな共犯関係による連帯、旅の終わりを受け入れる過程、そういった大人たちの旅に付き添うような鑑賞体験になって、本当に良くできた映画だなあと!

イランでは上映の目途が立っていないそうですが(日本公開時)、これからも作品を追ってみたい監督の一人です!あとあれ、「この邦題が良い2023」大賞です!おめでとう!

スコセッシ待望の新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』、206分は(インド映画に慣れてきたオレでも)さすがに長いよ!!と思いましたが、まあ面白かったですわね~!アメリカ先住民の居留地で起きた恐るべき連続殺人を映画化!なんですけど、語り口に工夫があって見応えがあった。皮肉の効いた(しかし映像的にはものすごく楽しい)ラストの切れ味よ。

そして白人側の主役を演じるレオ様ね…、空虚で粗野な怪物でありながら決して頭は悪くない、なのに自覚も葛藤も薄いどうしようもない悪党を力づくで成り立たせていて凄まじかったです。第一幕から第二幕への転換のダイナミズムを一身に担っていた。

そしてベテラン二人と渡り合って見劣りしないリリー・グラッドストーンの素晴らしさ。彼女が存在する空間の全てが彼女のために誂えられたように感じられるほど、その場の空気を掌中に収めていてすごかった。

スコセッシの上手いところは、こういう題材に対して「自分が知っているほう」からアプローチするところですよね(他の作品をそんなに観ているわけではないが)。この場合はアメリカ生まれの白人男性っていう立ち位置。でも原作でテーマの一つになっている「FBI誕生」にはフォーカスしないという絶妙なバランス感覚。流石です。あと本作、劇伴や音響も良かったので映画館で観れて良かったなあと思いました。映画館の経営的には大変だろうが…なんかオマケつきでちょっと値上げしても良かったのでは、と思わなくもない。

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、強烈なルックと、女の子の解放と旅立ちを描くのにそんなやり方が!?って思ったのと、人間の描写が全然ティピカルでないところが面白いなあ!ってなりました。

本作の好きなところ、別に善人じゃなくても誰かを助けて次の場所へ送り出すことができるし、恩義があってもちょっと違うなと思ったら離れていいし、自分にとっては当たり前の営みでも人を救うかもしれないし、大好きでも一緒にいなくてもいいし、ていう人間関係の軽やかさですね。深くて重い関係だけが尊重されるべきじゃなくて、少しずつ色々な関わりがあってこそ人間は人間になるんでしょう?っていう感じ。もう二度と会わなくても、言葉や記憶は残るし、歌や踊りは心を繋いでくれる(ニューオリンズだからね!)

ところで、最後の車のシーンでモナ・リザはガムを噛んでいたあの人のことをちょっとだけ理解したと思ったんですけど、どうですかね?そういうところも本作の好きなところ(子供から大人に成長するときに、そういう気づきというか学びってたくさんあるよね)。

まあだいぶ暴力的な展開があるので万人にはお勧めしづらいが、自分の力を知って社会に出ていく女の子の話なので最高のラストシーンをお約束しますよ!

2023年ラスト、年末最終週に滑り込んできたのが『ファースト・カウ』でした!前評判があまりに良くていっそ不安な気持ちで観てしまったが、いや~期待に違わぬ素晴らしさであった…なんやこれは…(なんやこれは?)。カウボーイ誕生以前の西部劇という点においても興味深く観ましたが(まだ経済圏が流動的で、内陸には町が無く、港の周囲に砦や集落が点在している)、その時代を背景にして暴力的な支配関係から降りた男たちの友情を描くとこんなに新鮮なのか、っていう驚きがあった。

その時代に当然の前提とされている価値観に馴染めなかったり拒絶したりすることで、主流の社会活動から疎外されていても、彼らには夢や野心が当然あって、それを共有できる友人に出会いともに生きることができる、っていうささやかで強靭な希望を、繊細で堅牢で瑞々しい映画で語るの、本当に素晴らしかったです。

そしてケリー・ライカート監督の作品は初めて観たんですけど、その類まれな演出力よ。闇の暗さ、冬の空気の冷たさ、森に鳴きかわす鳥の囀りのきらめき、小さな火を灯す指先、牝牛の柔らかな毛、吐く息の白さ、囁き交わす友の声。確かにあった美しいものたちを、寿ぐように写し取り、それらが物語を紡いでいく、その手腕に惚れ惚れしますね。

ということで、今年のベスト新作映画10+10本でした!映画館での鑑賞は、自分史上最高本数を記録したけどそれでも見逃したな~って思ってる映画がそこそこある。映画ってたくさんあるのね…(いつも言うやつ)。

あとこれは出典を見失ったのであれですけど、ここ数年の映画が長尺化しがちなのは、ワインスタインがスキャンダル(っていいうか犯罪)で失脚してから、映画製作においてプロデューサーの権限が弱まって、代わりに監督が編集の決定権を持つようになり、監督は自分の撮った作品だから短くできないから、っていう話。この話を折に触れて思い出した2023年であった。インド映画は別です、あれは製作陣が詰め込めるだけ詰め込むほうが良いと確信している節がある。

旧作映画も30本くらい映画館で観れて、それはすごく良かったので別記事を立てたい気持ちはある。自分のようなにわか映画ファンには、「見て損は無い映画」というレコメンドにもなっててありがたいんよね。

 

引き続き、皆さまにも映画との良い出会いがありますように!!!!

では!!!

2023年、中高年女性が自分の人生を取り戻す映画が充実していた話

来週はもう2024年!師走ですね!!!まだまだ振り返りが足りない気がするのでどんどん振り返りますよ!(とか言ってるうちにたぶん年が明ける)

で、本稿タイトルの話なんですけど、どうですかね???(誰に聞いているのか)まあ日本で2023年に公開されたというだけで、製作はもっと前だった作品もあるんですけど、中高年女性が、恋愛ではなく、仕事や趣味(というかセカンドキャリア?)で自分の人生を自分の手中に取り戻すというテーマの作品が目立ったなあと思いました。

それなりに歳を重ねた女性の、恋愛ではなく、仕事を軸にした人生の映画(エンタメ系で)ってパッと思いつかなくないですか?でもそういう映画が海を越えて日本で公開されるようになったのは、配給会社とかが多様な層の観客を意識するようになったことの現れなのかなあと思いました。

中高年女性が主人公のお仕事映画でも、実際の社会問題がモチーフの作品はまた別よ。そういうのは、女性の人生がメインテーマではないことが多いからね。

それと、恋愛や家族の話もちょっと違うかな、と思いまして。それらはこれまでも”女性”に紐づけられていて、中高年女性が主人公の話も一周回った感じがあるから。そういう親密な他者との関係ではなく、個人と社会との関係を軸にした話ね。現代において、社会参加や自己実現アイデンティティや自尊心と密接に結びついているのに、そしてそれはみんな知っているのに、なかなか中高年女性をそういう映画の中心に据えにくい、というのはなぜなのか、という分析は…どっかにはあるだろうね…。

あと、「女優」のキャリアの多様化というか地位向上というか、そのあたりも関係がありそうですよね。かつて(まあ日本とかでは今も)、年齢を重ねた「女優」がドラマの主役になれる機会はほぼ無く、主人公の家族や悪役がせいぜい、みたいな話があるじゃないですか。そういうキャリアの幅の狭さに対して問題意識を持った俳優や製作陣が決定権を持つ層に上がって、それでこういう企画が色々と出てくるようになったのかな、ていうね。やっぱり世界はちょっとずつ良くなってるような気がしますね(年末らしいコメント)。

それでは個別の作品の感想ですよ!!選んだ基準は……まあ個人の意見なので……しかしこのラインナップを眺めると、中高年女性が自分のために何かを成し遂げるのって大変だなあと嘆息しますね。実話ベースだろうが完全なファンタジーだろうが、自分の人生の手綱を取りたいだけなのに、とにかく有形無形の障害物が多い!!!だからこそ彼女たちの活躍が輝くし、実力のある俳優の力のこもった仕事が観られて嬉しい限りなのですが。

『ドリーム・ホース』

ウェールズを舞台に、一般女性と村のコミュニティが競走馬を育てた話なんですけど、わたしが競馬というものに無知すぎたんですけど、競走馬ってものすごく戦略的に生産される”製品”なんだね!!そりゃそうか!!!すごい金額が動く世界だもんねえ!!って観ながらずーっと思ってた……。

で、そういう世界に、副業?で培った動物を育てる(見極める)技術と熱意で乗り込むのが、子供は独立して旦那は無気力、日々の仕事と介護で心がすり減っている女性なんですよね。家庭内の家族づきあいとかご近所や職場の人間関係とか、そういうのとは別のところで「やりたいこと」を見つけてそれに邁進する(もちろん仲間を見つけながら)、ていうメインストーリーは、なんか爽やかな青春ものの趣きもあって素敵でした。

ウェールズの競馬文化がとても興味深く(ブリテン島の競馬文化の伝統を感じる~!)、動物の撮り方も好きな感じでした。レースシーンは映画館で声出そうになったよね!


『ミセス・ハリス、パリへ行く』

ポール・ギャリコ原作の小説をディオールの全面協力を得て実写化!というだけあって、いやドレスが美しかった~~~はあ~~眼福とはこのことよ。

で本作、(当たり前すぎて誰も言ってないが)ドレスって”中高年には分不相応な”夢や憧れの象徴なんだね。だから本質的には、前項の『ドリーム・ホース』や後で出てくる『ロスト・キング 500年越しの運命』とかと同じ話なんですよね。そうなり得たのは原作から改変されたラストのおかげで、なので現代に相応しいおとぎ話として完成されたと思う。

あと、ディオールに限らず、ファッションの世界で表舞台で名声を得るのは男性が中心だったとしても、それを支える販売スタッフやパターナー、お針子、モデルなどの労働者は女性が中心になっていて、ミセス・ハリスが家政婦という女性労働者の立場で、夢を持ってその世界に足を踏み入れることで、彼女たちに光を当てて連帯を促す話になっていたのもとても良かった。

いつだって、誰だって、夢を持って自分のためにそれを叶えることができるはずだという話が、これまで物語の中心になり得なかった中年女性労働者を主人公に据えて語られる、というのが本作の美点だと思いました。あとはとにかく衣装が素晴らしく華やかなので、年末年始に観るのに良いと思うの!!


アラビアンナイト 三千年の願い』

いやこれ恋愛映画じゃない?って思いましたね?(だから誰に聞いているのか)

これもねえ、この話をティルダ・スウィントン主演で撮ったのが今っぽいなあ!!と思いまして。魔法や奇跡を信じない学者が、ランプの魔人と出会っていろいろな話を聞いて新しい体験を経て、新しい人生を始める話なんですけど、きちんとキャリアを重ねた大人の女性を主人公にしてるのが新鮮だよね。それゆえに頑ななところ、あるいは大人だからこそ柔軟な心、みたいなものがファンタジックに描かれていてなるほど~って思いました。いやかなり謎めいた話ではあるんですけど。

で、この年の瀬に振り返るとこのカテゴライズなんですけど、映画を観た直後に考えていたことは、物語を語って愛を乞うランプの魔人は監督の分身で、魔法や永遠の愛を信じない主人公は映画の観客で、だとしたら監督はすごくロマンチストでポジティブで、まさに現代に必要とされる語り部なんだな、ということでした。『マッドマックス』シリーズの間(『Fury Road』と『Furiosa』ね)に撮ったのが本作って、あんたすごいよジョージ・ミラー…。

 

『オマージュ』

ちょっとスランプ気味の映画監督である主人公が、60年代の女性監督が撮ったフィルムの修復を依頼されたことから、自分のキャリアや、韓国映画界の来し方、女性たちの友情や人生について振り返る映画!

「映画についての映画」って名作が多いと言われますが(理由はなんとなく分かる)、本作もその法則に従っておりますね!

家庭を持ちつつ仕事を続ける女性の話で、映画監督がルーツを含めて映画を再発見する話で、色々な立場や年齢の女性同士が緩やかに連帯する話で、それでいて軽やかなユーモアや誠実な人間描写があって、ささやかだけれど普遍的な悩みや喜びがたくさんあって、映画の魔法も感じられるとっても温かで素敵な映画でしたね。

で、確かに話の規模としてはささやかなんだけど、やっぱり中年女性が人生の舵を自分で取るのって(映画監督という職業にあってさえ!)本当に難しくてガッツが要って、そのための勇気を過去や現在の色んな人や芸術作品から分け合おうね…、ていう優しさが沁みました。


『バーナデット ママは行方不明』

本国では2019年に公開された本作、日本では『Tar/ター』に併せて劇場公開してくれたのかな…?と思いますがこうして並べてみると今年で良かったかもな!と思います。ケイト・ブランシェットが楽しそうで嬉しい!!

才能に恵まれながらもチャンスを生かせず、家庭で鬱憤を溜めていた建築家が、やや強引な手段を取って(だから”行方不明”なんだね!)自分の能力を発揮できる場所を探しに行くんだけど、きっと男性だったら、一度の失敗があっても家庭に入ることなく建築コミュニティの中で仕事を続けただろうな、て思っちゃうよね。どうしてもね。優しくて聡明なパートナーでさえ「え、君は自分で家庭に入って満足してたんじゃないの?」みたいな理解度だったからな。

バーナデッドはちょっとエキセントリックだから別に同性の友達もいないんだけど、それでもなんとなく似た境遇の(違う道を選んだ)女性たちとなんとなく分かり合えたり、男たちには見えないところで反発や連帯があったりして、そういう描写も面白かったです。

 

『ナイアド その決意は海を越える』

外洋遠泳で名を馳せたダイアナ・ナイアドが60歳を迎えて、かつて失敗した160kmの遠泳にチャレンジする実話ベースの映画!主演二人、アネット・ベニングジョディ・フォスターの仕上がった身体に鬼気迫るものを感じたわ!!!

本作も、類い稀な才能を持ちながら不本意な形で引退していた女性が、仲間を集めて新しいチャレンジを始める話なんだよね。こういう物語が、今の世の中で求められているってことなのであろう。ここで感想を書いている他の作品もそうなんだけど、主人公のナイアドを理想化したりせずに、当たり前の人間として凸凹も含めて描いているのが面白いんですよね(面白がっている場合ではないが、特に周囲)。で、社会的な使命とか家族のためとか、そういうことではなくて、ただ自分が本当に成し遂げたいことを成す、そのことが人間の尊厳を形成するということを、中高年女性がやってくれるのが良い。若者とか男性が主人公の物語だったら、今までにも色々とあったと思うんですけど、そうではない人たちの話が増えていくのは頼もしく、喜ばしいことです。

ところでよく考えたらそりゃそうなんですけど、キツい状態で冷たい海で泳ぐシーンがめちゃくちゃ多くて観てるこっちが寒くて凍えそうだったです。夏に観たかった…(そういう問題か?)

 

『ロスト・キング 500年越しの運命』

サリー・ホーキンス!!!儚げで本当に優しいのに芯が強くて聡明な女性を演じさせたら右に出るもののないサリー・ホーキンス!!!(落ち着いて)

病気を患って、仕事や家庭で思うようにいかないことが積み重なって行き詰まりを感じている女性が、シェイクスピア演劇で描かれるリチャード三世の姿に疑問を持ち、真実の姿とお墓を探す話!

私がヨーロッパ史シェイクスピア劇に無知すぎて、本作の細かい作り込みみたいなところは全然ひろえてないと思うんですけど、それでも本当にしみじみといい話だった。いやもうエディンバラが舞台なんだ~町並みが綺麗だな~とか、そっからでしたからね。リチャード三世ファンの集いの皆様には本当に申し訳ありません。

で、本作は病気や境遇のせいで本来の能力を発揮できる場を与えられなかったり、不当な評価を得たりする人が、時代を越えて連帯する話なんでした。実話ベースとはいえ、そういうの辛いよねえ~ってなったことある人にはみんな刺さると思うんだよ。本作では主人公は素人かつ女性、しかも持病あり、ってことで何重にも舐められるんだけど、それでもきちんと評価してくれる人がいたり、細やかな連帯や思いやりがあったりして素敵なんだよね。

あと成果が出そうなタイミングで大きな組織が表舞台の評価を搔っ攫っていくところとか、妙にリアルで(実話だからね!)ちょっと具合が悪く…うぅ。でもだからこそのラストシーンが輝くんだよな!本稿のラストを締めるにふさわしいラストシーンだったので、ぜひ観て欲しい~~~!!

長くなりましたがだいたいそんなところかな!!!

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』マジック・マイク ラストダンス』も中高年女性主人公で面白かったんだけど、本稿の主旨とはちょっと違うか…?と思って外しました。が、これらも大変面白かったです!!!やっぱさあ、年齢を重ねた俳優の多彩な魅力を堪能できるから、中高年女性が活躍するエンタメ作品はもっと増えて欲しいよね!!!

はい!!!

もっと書けそうな気もしますがそろそろ年が明けてしまうのでこの辺で!!!

では!!!

2023年、映画館は今年もインド映画で盛り上がっていた記録

師走になってから急に焦ってまとめ記事を更新していくスタイル!!!

はい!今年もインド映画が熱かったですね!たぶん!!!(別に他の映画ファンと交流がある訳ではないので空気感が分からない)(友だちがいない)

そりゃインド全域では年間で数千本製作されるというインド映画、その頂点を極めた数本を日本で見せて頂いているわけなので、面白くないはずがなく、っていうね!

『RRR』の規格外の大ヒットのおかげで(1年経ってもまだ上映館がいくつもある!)インド映画の買い付けと公開規模の拡大が目立った2023年でしたね。なのでマジでたくさん観ました!!!余裕で180分超えてくるからスケジュールの確保が大変なのだが……。まあその甲斐のある超大作・娯楽作が目白押しで、楽しませて頂きましたよ!!!

にしても多いので、個別の感想は…ごめん無理かも…

観た順ではないです。書きやすい順。

『WAR ウォー!!』『バンバン!』(ヒンディー語

去年、『スーパー30 アーナンド先生の教室』で素晴らしいヒューマンドラマを見せてくれたリティク様のスパイアクションもの!アクション俳優が本業(本業?)だったんか!!!!ってなった2作。いや~、こんな人類、実在するん?(するよ)

どちらもサービス精神とエンタメ力(ぢから)が画面からあふれて納まらず、観客が受け止めきれないほどの超大作であった。『WAR ウォー!!』は2019年(日本公開は2020年)、『バンバン!』は2014年(日本は今年が初公開、たぶん)の作品で、リバイバル企画みたいな感じで立て続けに観たんですけど、ダンスもアクションも美術やセットも、リソースのかけ方がすごいので、これに眼が慣れたら他のアクション映画が観れなくなりそうだった。実際ちょっとやばかった。

あと現実の政治的緊張をこういう娯楽大作にガンガン出してくるのは、インド国内の市場が巨大だからかな~と思いました。ハリウッドの大作だと、もう少し各方面に配慮するじゃん?(全世界で興行収入を稼ぐ必要があるため)

 

『PATHAAN/パターン』(ヒンディー語

シッダールト・アーナンド監督!!あんたすげえよ!!てなった三作目。

ひとつ間違えば荒唐無稽になりそうなところをギリギリで回避しながらお約束の展開をパワフルにバージョンアップする演出力!大量のリソースと莫大な期待と世界を統べる王のごときスター俳優を使いこなす剛腕!マジで一見の価値がある…っていうか同時代にいてくれてありがとう、っていう感謝しかない。配給および上映に尽力してくださった日本のみなさんにもありがとう……(落涙)(落ち着いて)。

ちなみに本作も割とホットな政治的トピックを扱っていて、まあ強権的な政治体制だからその意向に沿った内容ではあるんだろうけど、それにしてもどストレートだなあ!と思ったことでした。

それからあれよ、インドのインテリ階級の間では日本の「禅」的な精神論が流行っているのか?まあ西欧とは別の(アジア的)価値観にフィーチャーする必然性があるのは何となくわかるけどね。


ブラフマーストラ』(ヒンディー語

ちょっと脚本が混乱していたが、インド神話(とひとくちに言えるものでもないのでしょうが…)を元ネタにしたヒーロー覚醒ものということで、続編への意欲を隠さない構成は嫌いじゃないよ。豪華キャストも(本国では)話題だったらしいが、そういうの分からんくてごめん……ってなった。


『響け!情熱のムリダンガム』(タミル語

これ!2022年後半の話題作をようやくわが町でも観れたってワケ!!

現代インドを舞台に、カースト制度に代表される複雑怪奇な階級(階層?)社会をサバイブするタフな若者の姿を生き生きと描き、インドの豊かな音楽文化の一端を垣間見せてくれる素敵な青春映画でした!

いやほんとに、登場する楽器の多彩さには目を見張るものがあった。熱意のかたまりみたいな充実したパンフレットに、映画内で登場する主な楽器(特に打楽器)の名称と解説が載っているので、その英語名でYouTubeを検索すると時間が無限に溶けていくからおススメだよ!うろ覚えなんだけど、両手でリズムをとるタイプの打楽器で、右手で5拍子左手で17拍子とかやってたりするらしいんですけど(そんなことある!?)、そのあたりは素養がないので全然わかりません。でも楽しい。


『サルカール 1票の革命』(タミル語

タミル語映画、強いな!!去年『マスター 先生が来る!』でご尊顔を拝した大スター・ヴィジャイ大将が主演の社会派エンタメです!

タミル語映画は、他と比べて社会問題を取り上げる傾向が強いらしいのですが、これはまた直球なのが来たな、という感じです。インドの政治的腐敗、弱者への抑圧的政策などは時々ニュースなどで耳にしますが、それに対峙する人々の熱量もまた凄まじいものがある。

こういう映画でも、ヒーローは貧しい出自から成りあがった人物なのはお約束だね。地域の反骨精神が託されているのであろう。

映画で示唆される実際の出来事やインドの選挙の仕組みなどの解説があり、鑑賞の役に立つ大変ありがたい記事↓(2019年の映画祭で公開されたときの情報のようです)

『サルカール 1票の革命』鑑賞に役立つ予備知識|インド映画Note

 

『ランガスタラム』(テルグ語

で、こちらは粗筋をさらっと読んでおぉこれも不正選挙の話か…ホットな話題なんだな…とか思っていたら後半の展開でひっくり返ったやつ。貧しい村で様々な抑圧に耐えながら現状維持を目標に生きている人々が、ある兄弟の行動によって盲を啓かれる…みたいな展開なんだけど、後半で急にリベンジノワールみたいになるんだよな…あーびっくりした。

あとこれは単なる推測だけど、インド映画(って一括りにしてごめんよ)の俳優の演技メソッドって、たぶん独特だよね?求められる資質も、発揮すべき能力も、西洋を中心に発展した演技術とはぜんぜん違うことをやっている気がする。ということを、本作の主演であるラーム・チャラン氏の『RRR』を思い出しながら考えたのでした。

 

『K.G.F:CHAPTER1』『K.G.F:CHAPTER2』(カンナダ語

敵対する悪役が強ければ強いほど、主人公が輝く!それはそうなんだけどさあ…!っていうのを何度でも味わえてお得(お得?)。主役のロッキー兄貴を筆頭に、メインキャラたちの強烈なビジュアルと外連味たっぷりのアクション演出が良いね!

いやアクションていうよりはほとんど超常現象みたいになってたけどな…俳優陣の運動能力が高すぎる。基本的に派手な特殊効果は爆発炎上くらいで(全て本当の爆発である可能性もあるが)、群衆も含めて本物志向が前面に出ていて、マジで町ひとつくらい潰してないか???ってなった。インドは広いからな…(偏見)。たぶん邦画だとハイローシリーズとかの系統なんだけど、闘いに出てくる俳優がみんないい面構えのおじさんたちで(あと髭)、この美意識は本当に癖になるね。

カンナダ語」てちょっと珍しいな?と思ったら、やっぱりインド映画界でもヒンディー、テルグあたりに比べると弱小勢力らしい。とはいえこの規模(巨大な鉱山を全部吹き飛ばすくらいの規模)のノワールヒーローものを撮れる時点でだいぶ巨大市場だと思うが……。ヒンディー語映画との洗練とはまた違う、土埃と金と血の匂いが充満する大作ノワールアクションを観れて楽しかったです!続編、あるんか!?

 

ここからの3作は、「熱風!!南インド映画の世界」という特集上映で上映されたのを観に行きました!いずれも劇場上映初、または日本初上映だそうです。混んでる映画館に行きたくないあまり、上映回数が少ない映画祭とかの特集上映には一切足を運んでいないのですが、この企画は全国各地でわりと長い期間をかけて開催していて、各作品の上映期間もずらしながら1~2週間確保してあり、行きやすかったので良かったです(映画館が儲かったかどうかは不明だが…)。ちゃんとしたパンフレットまであって、とても充実した企画でした!

 

『ヤマドンガ』(テルグ語

こちら、『バーフバリ』シリーズや『RRR』でお馴染みS・S・ラージャマウリ監督の2007年の作品ですね!『バーフバリ』が日本でヒットするまで、インド映画といえば『ムトゥ 躍るマハラジャ』のイメージで、その間約10年間のあまりの超進化に腰を抜かしたライト映画ファンの自分にとって、ちょうどその間を埋めるような作品だと思いました。

美形ヒロインとの運命のロマンス、無敵イケメン主人公の成り上がり、華やかなダンス、煌びやかな寺院、緩いギャグ、決め台詞、完全無欠のハッピーエンド、それらのお約束を全て盛り込みながら、予想外の展開や斬新なアクション、アイディアに満ちたダンスシーン、主役以外の登場人物たちへの繊細な眼差し、そういった監督らしい要素がすでにそこにある。ていうかさ、ハッピーエンドが確約されている3時間のコメディを飽きさせずに引っ張る剛腕がすごいよな。まさに唯一無二の才能。


『プシュパ 覚醒』(テルグ語

特集上映の中では最も新しい本作。『ランガスタラム』の監督なんだね!?意外っちゃあ意外。でも現代の社会問題とサスペンスを絡ませてエンタメに落とし込むのが作風なのかも、と思えばなるほど。

本作もノワールヒーローもので、こういう才覚と腕力で成り上がる話が熱狂的に支持されるインド社会というのも大変なことだなあと思ったりする。それはそれとして、そういう映画が面白いのは間違いないのですがね。人気俳優によるヒーローものなので主人公は顔色一つ変えずに困難を打破していくのだが、後半、続編への布石として出てくる敵二人がめちゃくちゃいいキャラクターで、本当にびっくりした。こういう魅力的な悪役を創造できるところが、インド映画(たぶん特に南インド)の強みだなあと思いました。

 

『サイラーナラシムハー・レッディ偉大なる反逆者』(テルグ語

20世紀初頭、南インドのレーナードゥ地方で英国軍に反乱の狼煙を上げた実在の領主をモデルにした英雄譚!

英国から条件付きにせよ身分や収入を保証されていた領主クラスの人物で、初めて組織的に武力蜂起したのがこのナラシムハー・レッディとされているそうで。しかし史実としては、本当にインドが独立できるのはこの戦いから100年も先のことになるわけで、後半はもう胸が痛くてしんどかったです。

志半ばで倒れた何十人もの英雄たちの犠牲の果てに、インドという国を手に入れたことを思うと、西欧諸国を便利に利用しながらも彼らとは全く別の価値基準で国を豊かに強くしていこうという為政者の気持ちはまあ理解できるよね(それを実現する手段の是非はともかく)。あと、こういう国民的統合を目的にするような娯楽作品が熱心に作られるのも納得がいく。しかし本作は独立心旺盛な南インドから出てきた、という点が割と重要な気はしている(『RRR』の二匹目のどじょうを狙ったのもあるとは思うが)。

 


『燃えあがる女性記者たち』(ヒンディー語

ドキュメンタリー映画です!感想は別記事で書いたのでそちらどうぞ!しかし現代インドの社会派ドキュメンタリーまで映画館で観れるとはね。それだけインドに関心のある層が広範囲になったということなのであろう。

 

あとは配信で見た旧作…

ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル』(ヒンディー語

象の密猟者と戦う獣医!顔と身体が良すぎる!!!

ちょっと変わった格闘術を使っていたのでそのへんもっと観たかったですね!上映時間115分てえらい短いな…と思ったら、監督がアメリカの人なのであった。象がかわいい。

 

『きっと、うまくいく』(ヒンディー語

初見だよ!本作を観る直前、南インド映画ばっかり観ていたので2009年にしてこの洗練…!?となったのであった。どっちも好きだよ!

インド最高学府を巡る熾烈な出世競争、カースト制度の外へ出ることの難しさ、青春のゆかいな冒険、成長、ほろ苦い思い出、甘酸っぱい恋、ぜんぶ詰まってインドらしさと普遍性の両方を獲得した映画なのであった。なお、インドの大学寮の雰囲気が良く出ているらしい…野蛮!(まあ20歳そこそこの野心的な男子を一か所に集めたらああなるだろ、という普遍性…やっぱり野蛮!)

ストーリーの捻りも効いてて、世界中で大ヒットも頷ける話ですよ。いや面白かった。

主演のアーミル・カーンは本作の撮影時40歳を超えていたらしく、ウソだろ!?と思いました(普通の感想)。

 

はい!長くなったので(インド映画だけにね!やかましいわ)ここまで!!!

なんかこう、ハリウッド的な映画文脈とはまったく違うところで大きく育ったインドの映画文化の、ほんの端っこにでも触れることができて楽しかったです!!

みんなもインド映画沼で溺れている人たちを眺めながら、インド映画を楽しもう!

では!!!!!