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2023年、中高年女性が自分の人生を取り戻す映画が充実していた話

来週はもう2024年!師走ですね!!!まだまだ振り返りが足りない気がするのでどんどん振り返りますよ!(とか言ってるうちにたぶん年が明ける)

で、本稿タイトルの話なんですけど、どうですかね???(誰に聞いているのか)まあ日本で2023年に公開されたというだけで、製作はもっと前だった作品もあるんですけど、中高年女性が、恋愛ではなく、仕事や趣味(というかセカンドキャリア?)で自分の人生を自分の手中に取り戻すというテーマの作品が目立ったなあと思いました。

それなりに歳を重ねた女性の、恋愛ではなく、仕事を軸にした人生の映画(エンタメ系で)ってパッと思いつかなくないですか?でもそういう映画が海を越えて日本で公開されるようになったのは、配給会社とかが多様な層の観客を意識するようになったことの現れなのかなあと思いました。

中高年女性が主人公のお仕事映画でも、実際の社会問題がモチーフの作品はまた別よ。そういうのは、女性の人生がメインテーマではないことが多いからね。

それと、恋愛や家族の話もちょっと違うかな、と思いまして。それらはこれまでも”女性”に紐づけられていて、中高年女性が主人公の話も一周回った感じがあるから。そういう親密な他者との関係ではなく、個人と社会との関係を軸にした話ね。現代において、社会参加や自己実現アイデンティティや自尊心と密接に結びついているのに、そしてそれはみんな知っているのに、なかなか中高年女性をそういう映画の中心に据えにくい、というのはなぜなのか、という分析は…どっかにはあるだろうね…。

あと、「女優」のキャリアの多様化というか地位向上というか、そのあたりも関係がありそうですよね。かつて(まあ日本とかでは今も)、年齢を重ねた「女優」がドラマの主役になれる機会はほぼ無く、主人公の家族や悪役がせいぜい、みたいな話があるじゃないですか。そういうキャリアの幅の狭さに対して問題意識を持った俳優や製作陣が決定権を持つ層に上がって、それでこういう企画が色々と出てくるようになったのかな、ていうね。やっぱり世界はちょっとずつ良くなってるような気がしますね(年末らしいコメント)。

それでは個別の作品の感想ですよ!!選んだ基準は……まあ個人の意見なので……しかしこのラインナップを眺めると、中高年女性が自分のために何かを成し遂げるのって大変だなあと嘆息しますね。実話ベースだろうが完全なファンタジーだろうが、自分の人生の手綱を取りたいだけなのに、とにかく有形無形の障害物が多い!!!だからこそ彼女たちの活躍が輝くし、実力のある俳優の力のこもった仕事が観られて嬉しい限りなのですが。

『ドリーム・ホース』

ウェールズを舞台に、一般女性と村のコミュニティが競走馬を育てた話なんですけど、わたしが競馬というものに無知すぎたんですけど、競走馬ってものすごく戦略的に生産される”製品”なんだね!!そりゃそうか!!!すごい金額が動く世界だもんねえ!!って観ながらずーっと思ってた……。

で、そういう世界に、副業?で培った動物を育てる(見極める)技術と熱意で乗り込むのが、子供は独立して旦那は無気力、日々の仕事と介護で心がすり減っている女性なんですよね。家庭内の家族づきあいとかご近所や職場の人間関係とか、そういうのとは別のところで「やりたいこと」を見つけてそれに邁進する(もちろん仲間を見つけながら)、ていうメインストーリーは、なんか爽やかな青春ものの趣きもあって素敵でした。

ウェールズの競馬文化がとても興味深く(ブリテン島の競馬文化の伝統を感じる~!)、動物の撮り方も好きな感じでした。レースシーンは映画館で声出そうになったよね!


『ミセス・ハリス、パリへ行く』

ポール・ギャリコ原作の小説をディオールの全面協力を得て実写化!というだけあって、いやドレスが美しかった~~~はあ~~眼福とはこのことよ。

で本作、(当たり前すぎて誰も言ってないが)ドレスって”中高年には分不相応な”夢や憧れの象徴なんだね。だから本質的には、前項の『ドリーム・ホース』や後で出てくる『ロスト・キング 500年越しの運命』とかと同じ話なんですよね。そうなり得たのは原作から改変されたラストのおかげで、なので現代に相応しいおとぎ話として完成されたと思う。

あと、ディオールに限らず、ファッションの世界で表舞台で名声を得るのは男性が中心だったとしても、それを支える販売スタッフやパターナー、お針子、モデルなどの労働者は女性が中心になっていて、ミセス・ハリスが家政婦という女性労働者の立場で、夢を持ってその世界に足を踏み入れることで、彼女たちに光を当てて連帯を促す話になっていたのもとても良かった。

いつだって、誰だって、夢を持って自分のためにそれを叶えることができるはずだという話が、これまで物語の中心になり得なかった中年女性労働者を主人公に据えて語られる、というのが本作の美点だと思いました。あとはとにかく衣装が素晴らしく華やかなので、年末年始に観るのに良いと思うの!!


アラビアンナイト 三千年の願い』

いやこれ恋愛映画じゃない?って思いましたね?(だから誰に聞いているのか)

これもねえ、この話をティルダ・スウィントン主演で撮ったのが今っぽいなあ!!と思いまして。魔法や奇跡を信じない学者が、ランプの魔人と出会っていろいろな話を聞いて新しい体験を経て、新しい人生を始める話なんですけど、きちんとキャリアを重ねた大人の女性を主人公にしてるのが新鮮だよね。それゆえに頑ななところ、あるいは大人だからこそ柔軟な心、みたいなものがファンタジックに描かれていてなるほど~って思いました。いやかなり謎めいた話ではあるんですけど。

で、この年の瀬に振り返るとこのカテゴライズなんですけど、映画を観た直後に考えていたことは、物語を語って愛を乞うランプの魔人は監督の分身で、魔法や永遠の愛を信じない主人公は映画の観客で、だとしたら監督はすごくロマンチストでポジティブで、まさに現代に必要とされる語り部なんだな、ということでした。『マッドマックス』シリーズの間(『Fury Road』と『Furiosa』ね)に撮ったのが本作って、あんたすごいよジョージ・ミラー…。

 

『オマージュ』

ちょっとスランプ気味の映画監督である主人公が、60年代の女性監督が撮ったフィルムの修復を依頼されたことから、自分のキャリアや、韓国映画界の来し方、女性たちの友情や人生について振り返る映画!

「映画についての映画」って名作が多いと言われますが(理由はなんとなく分かる)、本作もその法則に従っておりますね!

家庭を持ちつつ仕事を続ける女性の話で、映画監督がルーツを含めて映画を再発見する話で、色々な立場や年齢の女性同士が緩やかに連帯する話で、それでいて軽やかなユーモアや誠実な人間描写があって、ささやかだけれど普遍的な悩みや喜びがたくさんあって、映画の魔法も感じられるとっても温かで素敵な映画でしたね。

で、確かに話の規模としてはささやかなんだけど、やっぱり中年女性が人生の舵を自分で取るのって(映画監督という職業にあってさえ!)本当に難しくてガッツが要って、そのための勇気を過去や現在の色んな人や芸術作品から分け合おうね…、ていう優しさが沁みました。


『バーナデット ママは行方不明』

本国では2019年に公開された本作、日本では『Tar/ター』に併せて劇場公開してくれたのかな…?と思いますがこうして並べてみると今年で良かったかもな!と思います。ケイト・ブランシェットが楽しそうで嬉しい!!

才能に恵まれながらもチャンスを生かせず、家庭で鬱憤を溜めていた建築家が、やや強引な手段を取って(だから”行方不明”なんだね!)自分の能力を発揮できる場所を探しに行くんだけど、きっと男性だったら、一度の失敗があっても家庭に入ることなく建築コミュニティの中で仕事を続けただろうな、て思っちゃうよね。どうしてもね。優しくて聡明なパートナーでさえ「え、君は自分で家庭に入って満足してたんじゃないの?」みたいな理解度だったからな。

バーナデッドはちょっとエキセントリックだから別に同性の友達もいないんだけど、それでもなんとなく似た境遇の(違う道を選んだ)女性たちとなんとなく分かり合えたり、男たちには見えないところで反発や連帯があったりして、そういう描写も面白かったです。

 

『ナイアド その決意は海を越える』

外洋遠泳で名を馳せたダイアナ・ナイアドが60歳を迎えて、かつて失敗した160kmの遠泳にチャレンジする実話ベースの映画!主演二人、アネット・ベニングジョディ・フォスターの仕上がった身体に鬼気迫るものを感じたわ!!!

本作も、類い稀な才能を持ちながら不本意な形で引退していた女性が、仲間を集めて新しいチャレンジを始める話なんだよね。こういう物語が、今の世の中で求められているってことなのであろう。ここで感想を書いている他の作品もそうなんだけど、主人公のナイアドを理想化したりせずに、当たり前の人間として凸凹も含めて描いているのが面白いんですよね(面白がっている場合ではないが、特に周囲)。で、社会的な使命とか家族のためとか、そういうことではなくて、ただ自分が本当に成し遂げたいことを成す、そのことが人間の尊厳を形成するということを、中高年女性がやってくれるのが良い。若者とか男性が主人公の物語だったら、今までにも色々とあったと思うんですけど、そうではない人たちの話が増えていくのは頼もしく、喜ばしいことです。

ところでよく考えたらそりゃそうなんですけど、キツい状態で冷たい海で泳ぐシーンがめちゃくちゃ多くて観てるこっちが寒くて凍えそうだったです。夏に観たかった…(そういう問題か?)

 

『ロスト・キング 500年越しの運命』

サリー・ホーキンス!!!儚げで本当に優しいのに芯が強くて聡明な女性を演じさせたら右に出るもののないサリー・ホーキンス!!!(落ち着いて)

病気を患って、仕事や家庭で思うようにいかないことが積み重なって行き詰まりを感じている女性が、シェイクスピア演劇で描かれるリチャード三世の姿に疑問を持ち、真実の姿とお墓を探す話!

私がヨーロッパ史シェイクスピア劇に無知すぎて、本作の細かい作り込みみたいなところは全然ひろえてないと思うんですけど、それでも本当にしみじみといい話だった。いやもうエディンバラが舞台なんだ~町並みが綺麗だな~とか、そっからでしたからね。リチャード三世ファンの集いの皆様には本当に申し訳ありません。

で、本作は病気や境遇のせいで本来の能力を発揮できる場を与えられなかったり、不当な評価を得たりする人が、時代を越えて連帯する話なんでした。実話ベースとはいえ、そういうの辛いよねえ~ってなったことある人にはみんな刺さると思うんだよ。本作では主人公は素人かつ女性、しかも持病あり、ってことで何重にも舐められるんだけど、それでもきちんと評価してくれる人がいたり、細やかな連帯や思いやりがあったりして素敵なんだよね。

あと成果が出そうなタイミングで大きな組織が表舞台の評価を搔っ攫っていくところとか、妙にリアルで(実話だからね!)ちょっと具合が悪く…うぅ。でもだからこそのラストシーンが輝くんだよな!本稿のラストを締めるにふさわしいラストシーンだったので、ぜひ観て欲しい~~~!!

長くなりましたがだいたいそんなところかな!!!

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』マジック・マイク ラストダンス』も中高年女性主人公で面白かったんだけど、本稿の主旨とはちょっと違うか…?と思って外しました。が、これらも大変面白かったです!!!やっぱさあ、年齢を重ねた俳優の多彩な魅力を堪能できるから、中高年女性が活躍するエンタメ作品はもっと増えて欲しいよね!!!

はい!!!

もっと書けそうな気もしますがそろそろ年が明けてしまうのでこの辺で!!!

では!!!