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映画「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」を観てMake America Great Againをぶっ飛ばそう

はい!!邦題もメインビジュアルもぜんっぜん興味を惹かれなくて観てなかった「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」!!!めちゃくちゃ面白かった~~~!!!

本稿のタイトルで示唆させて頂きましたが、邦題からは想像もつかない設定&展開で、最高にロマンティックな出会いがアメリカ政治を覆うガラスの天井をぶち破る(かもしれない)、っていう話で、なんかハリウッドの「俺たちがやれることをやっていこうぜ」感に心を打たれたよね…。いや基本的には気楽に観れるハッピー&ラッキーなロマコメなんだけどさ。

ということで、同じように見逃してる人もいるかもしれないし、良い作品を褒め称える言説はひとつでも多く世の中に残しておかなくては…、という謎の使命感のもと、どういうポイントが面白かったのか、書いておこうと思います!!

ていうか別にこの記事は読まなくてもいいので、たぶん色んな配信サービスで気軽に観れるから、とにかく本編を観て欲しい!!

ト〇ンプ元大統領が起訴されたいま、絶好の視聴タイミングです!知らんけど!

あまりネタバレせずにいくつもりです!!

~あらすじと概要~

アメリカ史上初の女性大統領を目指し、大統領選への出馬を控える国務長官。大統領を補佐しながら世界を飛び回る有能な彼女と出会ったのは、体当たり取材と尖った社会批評が売りのフリージャーナリスト!スピーチライターとして雇われ、全く違う世界に生きる彼女を理解しようと奮闘する…!!

ていうね!!

本作、おそらくトランプ元大統領が選出された、アメリカがめちゃくちゃ大変だったあの選挙の直後に企画されたんだと思いますが、直球のカウンターだけでなく、こういう視聴ハードルの低いコメディ映画でもきっちり現実への失望と期待をメインテーマにするんだな、って感心するよね!!

別に社会風刺にピンと来なくても、とっても出来の良い、社会人の異業種交流ポリティカル格差ロマンスコメディ(欲張り!)なのがいいんですよ。『ローマの休日』で諦めたあの関係を、もっと主体的に取り戻すような、トラディショナルかつフレッシュな恋愛モノなのです!(『ローマの休日』もものすごく政治的な文脈のある映画ですが、それはそれとして)

 

~もうちょい詳しく~

前段でも書きましたが、アメリカ初の女性大統領に一番近いとされる国務長官が主人公の一人なので、あの世界中が震撼した(と思う)2015年の大統領選挙の結果を踏まえているはずです(本作の企画が公表されたのが2017年初頭なので)。

で、劇中の大統領は俳優上がりでそれなりに野心があるが、映画俳優を目指すために今の任期で引退することを決めており、後継者にシャーリーズ・セロン演じる有能な国務長官を指名することに合意している。立候補に向けた実績づくりに協力する意志もあるが、任期終了を前にした事なかれ主義が、政治家としての彼女の足を引っ張る…という展開で、国務長官の仕事内容や立候補者に求められるスペックなどをテキパキ説明してくれるので、状況が大変に分かりやすい。

…しかしアメリカのエリート実務者って、マジで信じられんくらい働くよね…これは他の映画を観たときも思うけど(『女神の見えざる手』とか)。そんな生活でロマンスが成り立つのか?というスリル(?)も必見だよ!!

ちなみに、劇中には大統領になってないトラ〇プもちゃんと出てくるので安心して欲しい(しかもすごい腹立つ感じで出てきて笑ってしまう)(現実のト〇ンプもこういう感じで政治に介入してたのかなあと思うと笑えないが)。

もう一人の主役のセス・ローゲンは、体当たり取材を得意とするジャーナリストで、極右の秘密集会に潜入して怪我をしたりしています(が、身体が丈夫なのでいつも無事!)。ただそういうキワモノ寄りの記事を載せる左派系ジャーナルは経営が厳しく、フリーランス…っていうか無職になってしまいます。成功した友人に愚痴をこぼしつつ、誘われたハイクラスのパーティーで運命の再会(!)を果たし、全く違う世界に生きる国務長官のスピーチライターを任されるのです!わぁわぁ!

学業や仕事に邁進し真面目一辺倒で生きて成功してきたシャーリーズ・セロンと、仕事は無いけど正義漢にあふれユーモアのセンスがあるセス・ローゲンの二人が息ぴったりで、観ててすごく楽しい!二人とも、互いの前ではリラックスして認め合い、信念や信条を尊重しつつ足りないところを補い合っている感じで大変にハッピーなアトモスフィアに満ちている。立場の違いを理解しながら、でもどちらかが卑屈になることもない。

 

~中年女性主人公のロマコメというジャンル~

それで、観終わってから気付いたんですけど、成功した中年女性(作中で年齢は明示されないけど、国務長官になるまでキャリアを積もうと思ったらそれなりの年齢のはず)と年下&低スペック(社会的にね)男性のロマコメということで、2022年に立て続けに公開された、中年女性が主役のロマコメの先駆けだったのでは…!?と思い至りました。本作は比較的コンパクトで親密な雰囲気の映画だけど、ここに商機があるとみて企画を立てて投資を集めたプロデューサーが複数いたってことよね…??慧眼!!

確かに、本作フレッシュな味わいで面白いのよ。お仕事コメディで格差ロマンスなんだけど、周囲の人々も含めキャラクターが個性的ながら親しみやすく、それぞれがちゃんと社会人をやっていて、互いに敬意を払っていて、ディティールにきっちり世相を反映している(作中の大統領[アホ]とメディア王[邪悪]にだけはかなり辛辣だけど、それは企画時期を考えると当然だね!)。

なお、女性の方がかなり社会的地位が高いので、全体の雰囲気はジェニファー・ロペスの『マリー・ミー』が近いかなと思います。女性があまりにハイスペックなのでむしろ観客のほうが怖気づいてしまうよね!きちんと人間として向き合うセス・ローゲンオーウェン・ウィルソンは偉いよ(?)。

本作のシャーリーズ・セロンはそれはもう知的でキュートで最高だったんですが、ご本人が相当な努力家であることを反映しているような、誠実で聡明でガッツのあるキャラクターで本当に素敵でした。

で、セス・ローゲンもなんか終始しあわせそうで本当に良かった、良かったね…てなりました。割とこう、不機嫌なスタイルのコメディアンなのかな、という印象があったので。知らんけど。

 

~政治的なメッセージのことなど~

基本的に肩ひじ張らずに観れるロマコメ映画ですが、それでもこういう作品を世の中に問う以上、製作陣が何らかの主張を込めるのは当然ですね。

そもそもさ、2015年の現実では女性大統領が誕生できなかった以上、それをフィクションに登場させること自体が世の中へのメッセージだよね。どこで読んだか忘れたけど、映画、ドラマ、アニメ、小説などのフィクションで実感を持って語られたことはいつか必ず実社会で実現する、っていう話で、本作は女性大統領が誕生する可能性の道筋を描いて見せた時点で、既にその実現に一役買っているのですよね。ていうか、女性大統領が誕生した暁には絶対に本作に言及されるでしょ!?ほかに類似の作品も見当たらないし、先駆的で野心的な作品だなあと思うのです。

あとね、正直さや誠実さを政治家にとっての美質として描いているのも良かった。折衝力や演出力もあったほうがいいけど、でもそれが本質じゃないよね?っていう。

そのへん、理想主義的すぎるという意見もあるようだけど、本作のメインストーリーは格差ロマンスだからね。政治で妥協して愛を手に入れてもそっちの方が白けるじゃろ。ああ、だからそういう理想を描くためにロマコメというスタイルを選んだのかな、なるほどね!さすがシャーリーズ・セロンだわ(製作に加わっている)。

で、よく考えると原題がダブルミーニングだよね(今さら)。「Long Shot」の意味が「(1)勝つ見込みのない候補 (2)大穴(競馬などで) (3)大博打」なので( long shotの意味・使い方|英辞郎 on the WEB )、セス・ローゲン側から見れば”高嶺の花”的な意味で、もうひとつは女性大統領が”あり得ない”という意味で。

それから、セス・ローゲンの友人として出てくる黒人の会社経営者。彼のキャラクターもちょっと捻ってあってすごいメタな意図を感じたよね。詳しくはネタバレになるので書けないが…。というより、あのニュアンスを正しく汲み取れている気がしない。あの時期にNYで暮らしてた人たちにとっては、たぶんひしひしと切実なテーマなんだと思う。

 

~邦題とメインビジュアルがマジでダメ~

ところでこの邦題、ぜんっぜんダメじゃん!?「ロング・ショット」の意味って、そんなにメジャーじゃないよね!?で、だからってこのサブタイトルもだめじゃない!?ダブルミーニングの片方しか拾えてないし、観た人なら同意してもらえると思うけど、本作の良さがまるで伝わらんよね!?!?

あと、二人が向かい合ってキラキラしてる日本版メインビジュアル(?)もダメ!!セス・ローゲンがジャージ姿で、シャーリーズ・セロンがドレスなんだけど、この恋の”格差”はそういうことじゃないじゃん!!本編ちゃんと観た!?

ということで、もし公開当時に映画館で観ていたら間違いなく「この邦題が良くないオブザイヤー」に選出していた。担当者はちょっと反省して欲しい。

はい!!!ということで『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』、なんか楽しい気分になりたい大人のみんなは絶対に観てよね!!!たぶんいい歳した社会人のほうが刺さると思うわ!!!

では!!!