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今のところ映画の話をしています

2023年、映画館で観た新作映画のベストを考える

 

今年の感想、今年のうちに!!!!!ってことで映画館で観た新作映画144本(たぶん)から選んだ20本を置いておきます!!

所感はあとで書き足す!

観た順、順位無しですよ!選んだ基準は、映画館で度肝を抜かれてそのまま魂が戻って来てないやつです。

まず10本!!!

フェイブルマンズ
★ ベネデッタ
EO イーオー
TAR/ター
マルセル 靴をはいた小さな貝
★ 大いなる自由
★ ウーマン・トーキング 私たちの選択
君たちはどう生きるか
★ ヒンターラント
ロスト・キング 500年越しの運命

 

次点の10本!!!

アラビアンナイト 三千年の願い
ガール・ピクチャー
プチ・ニコラ パリがくれた幸せ
雄獅少年 ライオン少年
古の王子と3つの花
★ 君は行く先を知らない
★ キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
アダミアニ 祈りの谷
★ ファースト・カウ

 

取り急ぎ、では~~~!!!

こっから先は年明けの加筆だよ!

改めて見直すと、自分のヘキが強く出たラインナップですね…なんか恥ずかしくなってきた。まあ個人の年ベスなどそんなものでしょうが。

個別の(でもないけど…)感想があるやつはリンクを張ってみました。年末に滑り込みで書いたのもある。それ以外のでメモ程度に感想を残しておきますねっ。

マジでぶちあがる『ベネデッタ』!これは同じポール・バーホーベン監督の氷の微笑を20年振りくらいに観て、ブレねえなあ~!と思ったことも入選の決め手ですね(?)。女性がとにかく強くてエロくて美しいところとか、理性のタガが外れたようなめちゃくちゃな人間性を扱っているのに、突き放したような理知的な印象を受けるところとか。バーホーベンの女たちは原作ナウシカクシャナに贈られた「血がそなたを清める」っていう言葉が似合うね!

1994年まで男性同性愛が刑罰の対象となっていたドイツで、愛を求め続けた男の20年間を描く『大いなる自由』セバスティアン・マイゼ監督のインタビューでほぼ全てを言い尽くされているので読んで…(ラストまで言及があるので、すでに観た人またはそういうの大丈夫な人向け)。

恐怖だけでなく親密さを増幅する暗闇、それを照らす煙草の灯、冷たい寝床と人間の体温、命を燃やすように、愛する人を強く抱き締める腕の感触。五感のすべてで語り掛けてくる映像や音の表現が鮮烈でした。刑務所内という、抑圧された限定的な空間の中で、あらゆる手段を講じて人間同士の繋がりを求める人の姿が痛々しくしかし強烈な光を放ち、観客の心を射抜く。その果てにある、ラストの選択。エンドロールに入ってからもちょっと放心してしまった…。

2023年初めにアカデミー賞脚色賞を受賞したことで話題になった『ウーマン・トーキング 私たちの選択』、7月に入ってからようやく観れたんですけど、期待と話題に違わぬ力作でした!

閉鎖的な環境で、組織的な暴力と搾取の被害を受けた女性たちが、今後の身の処し方、加害者との関係について話し合うという、地味といえば地味な映画だったんですけど、その対話の射程がとてつもなく遠く、広く、深くて圧倒されましたね…!

結論を出すまでのプロセスや中心的メンバーのキャラクター設定もすごく興味深いし、そもそも女性だけの対話劇っていうのがとても新鮮で、実力のある俳優たちの演技を堪能できたのも良かった。

本当に隅々まで考えられた脚本や演出で素晴らしかったのですが、個人的に最も印象に残ったのは、対話の場そのものへの信頼をどうやって醸成し、維持するかという共同的な営みが、様々なレベルで、意識的、無意識的なものの両方が、たくさんあったなあということです。話し合いをすればより良い結論を得られる、という前提を全員が共有しないと対話って機能しないじゃないですか。でもそれってけっこう脆い、というか自動的に生じるものではなくて、参加者の不断の努力によって成り立つものですよね。本作でも何度か対話の場が揺らいで消えそうになるけど、メンバーのそれぞれが様々なやり方でその場に留まることで、場の強度が増していく。それが対話に参加するということなのですよね。意見を述べるだけが対話への参加のやり方ではない、そして、そういう参加者もきちんと尊重される場であることが、大事なのだと。

まるで演劇の舞台みたいに始まって、話し合いの進展につれて世界の奥行きが増していく映像的な仕掛けも美しかった!この作品は映画館で集中して観れて本当に良かったです。

君たちはどう生きるか、英語吹き替え版が観たいな~~~!!!

いやもう宮崎駿が元気いっぱいで何よりだよ、ていう気持ちで胸が熱くなりましたね…作品の感想ではないですが…。わたしは宮崎駿を過剰摂取して生きてきたので、人格形成に影響を受けすぎて、一本の映画としての感想があんまり出てこないんですよ。ちゃんと公開初日の初回に観たからね。宮崎駿の新作を映画館で観れる機会なんてもう無いかもしれんしさ。

パンフレットとは別に10月頃?に発売されていたガイドブックのほうがとても充実していて良かったです。主要キャストへのインタビュー、スタッフの対談、宮崎駿の証言(?)、場面画像もたくさん!なんかこのガイドブックの出たタイミングとかグッズの発表とか眺めてると、10月に全世界同時公開するという方針もあったんじゃなかろうかと思いますね、真相は知る由もないが。というか逆に、世界公開のためのプロモーション戦略のひとつが日本先行公開だったのか。熱心なファンや報道関係者は海外からでも勝手に観に来るもんな…。

しかしあんなに事前情報の無い状態で映画を観れたのは非常に貴重な経験であった。鈴木Pの手のひらの上でなすがままである。

とか書いていたらゴールデングローブ賞のアニメ部門で受賞したじゃん!!おめでとう宮崎駿!死ぬまで絵コンテ描いててくれ!!!(厄介ファン)

オーストリア映画『ヒンターラント、タイトルの意味は「後背地」だそうです。これはねえ、もうルックスが好き過ぎた!第一次世界大戦後、ロシアからの帰還兵が遭遇する悪夢のような連続殺人事件。帰還兵たちの心的外傷をそのまま投影したような、歪な景色、昏い迷宮のような街並みに、彼らの苦しみを刻みつけるような血塗れの惨劇。

ドイツ表現主義を意識したという絵画のような背景美術と、傷ついた人間を演じる俳優が見事に調和していて美しくて残酷で素晴らしかったです。全編ブルーバック撮影というのを知ってから観たんですけど、フルCGならではの表現もありつつ、いやホントに?と思わせるクオリティでした。いや最近のカメラは優秀だから、ドラマとか映画でもセットか野外かほぼ分かるじゃん。本作は言われても分からんレベルだった。ライティングやカメラワークや空気の流れの作り方(?)にめちゃくちゃ工夫があると思う。監督のインタビューとかを読むと、撮影完了後の作業にものすごく時間をかけたと言っていたので、そうだろうね…、とか思いつつ、しかしこの手法ならではの世界観を見せてくれて大満足ですよ。これたぶん、『マルセル 靴をはいた小さな貝』でも同じような方向性の技術が駆使されてるんだよね。(おそらく)ぜんぜん関係ないところでこういうシンクロを見つけたりするのが新作映画を追いかける面白さではある。

ところで、全編ブルーバックでフルCG背景でも本作のようにリッチで見どころの多い画面をつくれるということは、本邦のドラマや映画において背景やセットの安っぽさが気になるのは、ロケやセットの規模の大小の問題ではなく単にディレクションの技術力が無いだけなのでは、っていう気付きがあって悲しくなった。

イラン映画『君は行く先を知らない』、こちらもすごかったです!巨匠、ジャファル・パナヒ監督の長男であるパナー・パナヒ監督の長編デビュー作だそうですが、すでにベテランの風格!二十歳前後の長男、幼い次男を連れた四人家族の車の旅。広々とした風景の中をゆく旅路の行き先は、幼い次男と観客だけが知らない。でも本当は、この映画のラストシーンの後にどこへ行きつくのかは、家族四人も、この映画を撮っている監督でさえ、分からないんですよね…、イランの、そういう状況をパーソナルな物語に仕立てて普遍性を獲得している脚本も見事です。家族の親密で何気ない会話で進むストーリー、ロングショットを多用した瑞々しい風景の中で鮮やかに浮かぶ人間模様、観客を物語に引きずり込む長回し、そういう要素が、(若い監督が家族や故郷のことを撮った作品ということも含め)『春江水暖』を思い出させました。

どこへ向かっているのか分からない初見も良かったですが(観客の不安と緊張に唯一寄り添えるはずの状態である何も知らない次男が、全然そんなキャラじゃないのがまたいい)、ラストまでの展開を知ってからもう一度観たら、この顛末をある程度は予測している両親や長男の、口に出せない別れの言葉や、言外のいたわりや慈しみ、焦燥や不安、ささやかな共犯関係による連帯、旅の終わりを受け入れる過程、そういった大人たちの旅に付き添うような鑑賞体験になって、本当に良くできた映画だなあと!

イランでは上映の目途が立っていないそうですが(日本公開時)、これからも作品を追ってみたい監督の一人です!あとあれ、「この邦題が良い2023」大賞です!おめでとう!

スコセッシ待望の新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』、206分は(インド映画に慣れてきたオレでも)さすがに長いよ!!と思いましたが、まあ面白かったですわね~!アメリカ先住民の居留地で起きた恐るべき連続殺人を映画化!なんですけど、語り口に工夫があって見応えがあった。皮肉の効いた(しかし映像的にはものすごく楽しい)ラストの切れ味よ。

そして白人側の主役を演じるレオ様ね…、空虚で粗野な怪物でありながら決して頭は悪くない、なのに自覚も葛藤も薄いどうしようもない悪党を力づくで成り立たせていて凄まじかったです。第一幕から第二幕への転換のダイナミズムを一身に担っていた。

そしてベテラン二人と渡り合って見劣りしないリリー・グラッドストーンの素晴らしさ。彼女が存在する空間の全てが彼女のために誂えられたように感じられるほど、その場の空気を掌中に収めていてすごかった。

スコセッシの上手いところは、こういう題材に対して「自分が知っているほう」からアプローチするところですよね(他の作品をそんなに観ているわけではないが)。この場合はアメリカ生まれの白人男性っていう立ち位置。でも原作でテーマの一つになっている「FBI誕生」にはフォーカスしないという絶妙なバランス感覚。流石です。あと本作、劇伴や音響も良かったので映画館で観れて良かったなあと思いました。映画館の経営的には大変だろうが…なんかオマケつきでちょっと値上げしても良かったのでは、と思わなくもない。

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、強烈なルックと、女の子の解放と旅立ちを描くのにそんなやり方が!?って思ったのと、人間の描写が全然ティピカルでないところが面白いなあ!ってなりました。

本作の好きなところ、別に善人じゃなくても誰かを助けて次の場所へ送り出すことができるし、恩義があってもちょっと違うなと思ったら離れていいし、自分にとっては当たり前の営みでも人を救うかもしれないし、大好きでも一緒にいなくてもいいし、ていう人間関係の軽やかさですね。深くて重い関係だけが尊重されるべきじゃなくて、少しずつ色々な関わりがあってこそ人間は人間になるんでしょう?っていう感じ。もう二度と会わなくても、言葉や記憶は残るし、歌や踊りは心を繋いでくれる(ニューオリンズだからね!)

ところで、最後の車のシーンでモナ・リザはガムを噛んでいたあの人のことをちょっとだけ理解したと思ったんですけど、どうですかね?そういうところも本作の好きなところ(子供から大人に成長するときに、そういう気づきというか学びってたくさんあるよね)。

まあだいぶ暴力的な展開があるので万人にはお勧めしづらいが、自分の力を知って社会に出ていく女の子の話なので最高のラストシーンをお約束しますよ!

2023年ラスト、年末最終週に滑り込んできたのが『ファースト・カウ』でした!前評判があまりに良くていっそ不安な気持ちで観てしまったが、いや~期待に違わぬ素晴らしさであった…なんやこれは…(なんやこれは?)。カウボーイ誕生以前の西部劇という点においても興味深く観ましたが(まだ経済圏が流動的で、内陸には町が無く、港の周囲に砦や集落が点在している)、その時代を背景にして暴力的な支配関係から降りた男たちの友情を描くとこんなに新鮮なのか、っていう驚きがあった。

その時代に当然の前提とされている価値観に馴染めなかったり拒絶したりすることで、主流の社会活動から疎外されていても、彼らには夢や野心が当然あって、それを共有できる友人に出会いともに生きることができる、っていうささやかで強靭な希望を、繊細で堅牢で瑞々しい映画で語るの、本当に素晴らしかったです。

そしてケリー・ライカート監督の作品は初めて観たんですけど、その類まれな演出力よ。闇の暗さ、冬の空気の冷たさ、森に鳴きかわす鳥の囀りのきらめき、小さな火を灯す指先、牝牛の柔らかな毛、吐く息の白さ、囁き交わす友の声。確かにあった美しいものたちを、寿ぐように写し取り、それらが物語を紡いでいく、その手腕に惚れ惚れしますね。

ということで、今年のベスト新作映画10+10本でした!映画館での鑑賞は、自分史上最高本数を記録したけどそれでも見逃したな~って思ってる映画がそこそこある。映画ってたくさんあるのね…(いつも言うやつ)。

あとこれは出典を見失ったのであれですけど、ここ数年の映画が長尺化しがちなのは、ワインスタインがスキャンダル(っていいうか犯罪)で失脚してから、映画製作においてプロデューサーの権限が弱まって、代わりに監督が編集の決定権を持つようになり、監督は自分の撮った作品だから短くできないから、っていう話。この話を折に触れて思い出した2023年であった。インド映画は別です、あれは製作陣が詰め込めるだけ詰め込むほうが良いと確信している節がある。

旧作映画も30本くらい映画館で観れて、それはすごく良かったので別記事を立てたい気持ちはある。自分のようなにわか映画ファンには、「見て損は無い映画」というレコメンドにもなっててありがたいんよね。

 

引き続き、皆さまにも映画との良い出会いがありますように!!!!

では!!!