窓を開ける

今のところ映画の話をしています

映画「イット・フォローズ」に懐かしいJホラーの残り香があった

「Jホラー」っていう単語、まだ生きてる?みんな分かる???

1998年の映画「リング」以降、「リング2」「死国」「うずまき」と続いて劇場版「呪怨」くらいまでの間、国産ホラー映画がホラー映画業界(?)を席巻していた時代がありましたね。「回路」も入れていいかな、、怒られるかな、、、

上の文章を書くためにちょっと検索しただけで当時の記憶が蘇ってうっすら冷や汗をかくくらいには、リアルタイム世代です。友達同士で子供だけで映画館に行くようになっていた頃で、家族が興味を示さないホラー映画をよく見に行っていました。「リング」がまさにそうなんですが、もともと苦手だったスプラッタ系の描写が少なくて、演出やストーリーの面白さで恐怖を生み出しているのが新鮮だったのを覚えています(当時はそこまで言語化できていなかったですが)。

で、今回の(今回の?)「イット・フォローズ」ですよ(前置きが長い)。

舞台はデトロイト自動車産業が衰退して見捨てられたような街に住む、明日なき少年少女たち。地元経済が崩壊しているので大人たちは出稼ぎでほぼ不在。子供たちだけが、閉塞的な街の中に閉じ込められていてどこにも行けない、そういうところが舞台のホラー映画である。

主人公がうつされてしまった「それ(It)」は、どこまでもついてきて、追いつかれたら死ぬのだというから性質の悪い死神のようなものだろうか。「それ」は人間の姿で、徒歩でやってくる。死を避けるためには、追いつかれないように逃げ続け、他の誰かに「うつす」しかない。

「それ」は静かに、気付いたらすぐそばにいて、歩きながら近づいてくる。人間の姿なのに明らかに怪異と分かる強烈な違和感を放ちながら。

主人公たちの視野の外、画面の隅をゆっくりと歩く人影。黄昏時の窓の外に見える影は、人間だろうか?それとも、知った顔に擬態した「それ」だろうか?

主人公が陥る疑心暗鬼、追いつかれるのではないかという不安、それらの演出がスタイリッシュで、端正な品があり、それでいてじっとりと陰湿で新鮮な驚きがあった。それらが、デトロイトという街の中で暮らす閉塞感と密接に結びついていることが丁寧に描写されていて、「ここを知らないやつに何が分かる」とでも言われそうなドライでシビアな感覚が鮮烈で、恐ろしくも美しい。

主人公たちが頼れるものは何もなくて、彼らの狭い世界でなんとかするしかないというあまりにも孤独な様子も印象深い。そして「それ」が擬態する人間は、主人公たちにとってどういう存在なのか?〇〇(ネタバレ配慮のため伏せます)の顔をした死神とは何なのか?いろいろ考えていて思ったのは、ここで具現化されている孤独は、程度の差はあれ、子供から大人になる途中で誰もが経験することなのかもということで、自分がどこに所属しているのか分からないし、大人は頼れない、手持ちのリソースもない、ただ同じ孤独を共有する友人たちと慰め合いながら、そしていつかは子供だった自分を切り捨てながら、大人になっていくときの寄る辺なさ。

それで、そういう人類存在に普遍の不安や恐怖と、日本という土地の土着的トラウマを融合して新しい感覚だったのが、世紀末のJホラーだったのではないか(たぶんすでに言われていることでしょうが)。良いホラーというのはそういうものかもしれないが、この「イット・フォローズ」にも同じ良さがあるなと思い至ったのである。

怪異が現れようが現れまいが、デトロイトの荒涼とした風景に寒々とした気持ちにならざるを得ないし、それに慣れ切った子供たちの様子が切ない(こちらの勝手な感傷ではあるのだが)。そこに、確実に近づいてくる死の予感。将来が閉ざされていることは承知の上で、それでも、何も持たない彼らが寄り添って、「それ(It)」と戦い生きようとする勇気と悪足掻きに心を打たれるのだ。

・・・

まあ見てる最中は怖くてそんなこと考えてなかったですけどね!!!怖いよ!「それ」、徒歩だからゆっくり来るんだけど頑丈なので扉とか破壊して侵入するからね!!見ながらじぶんちの逃げ道を考えちゃったよね!

あとは音楽がかっこよかったですねー!アナログ・シンセサイザーですって。不思議な浮遊感があって、作品世界の構築に大きく貢献していると思います。

ホラーに限らず映画でたまに多用される(?)大きい音とかのびっくり系演出が苦手で(主人公視点とかで必然性があれば良いけど)、本作はそれが無いのが個人的にハマった理由のひとつかもしれません。

ホラー映画、合わなかったときのダメージが他のジャンルより大きいので、選ぶのに慎重になってしまいあまりたくさん観れないのですが、これは見てよかったです。はい。

・・・

ところで、気に入った映画のレビューは基本的に褒めてるやつしか読まないので、そういったレビューの中でときどき「否定的な意見もあったけど」みたいな記述を見かけると「え!?否定する余地ある??美点がすべてを凌駕してるから欠点とか無くない???」ってなりがちです。

では!!!