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映画「亡国のイージス」を観て阪本順治監督への信頼を深める

映画「亡国のイージス」観ました!

阪本順治監督、マジで信頼できるな(前の記事参照)
・俳優陣もけっこう良かったな

というようなことを以下、とりとめもなく書き連ねております!ちなみに原作は未読で、この作品自体には特に思い入れもないので合わなさそうな人はスルーしてね!!あと、記事の後半で明らかにネタバレをしています!!!!!(公式でもありそうなレベルではありますが)

 

まあ「亡国のイージス」自体はねー、邦画だし自衛隊だし、GAO!で無料じゃなかったら観てなかったと思いますがね。興味の範囲外すぎる。でも意外と良かったなと思って、Wikipedia読みに行ったら(Wikipedia好きだね)阪本監督だったのでほほう、てなったのでした。

脚本は、開始数分ですごい数の登場人物が出てくる群像劇をよくこの尺にまとめたなという感じです。回想もテキパキと盛り込んで、なんとなく複雑な背景がありそうな雰囲気になってるのすごい。完全に艦上のドラマに振り切ったのはわりと奏功してると思いました。せっかくの本物だしね。

洋上の緊張感と対照的なのが地上の閣僚たちのダレ具合で、あの、アメリカさんが何か言ってくるまでは何も決められないな~、ていう雰囲気が妙にリアリティがあって、日本企業で働く会社員としては身につまされますね。「シン・ゴジラ」のあのてきぱきした会議はあれこそが虚構だと思っているので。「シン・ゴジラ」の、虚構VS現実、みたいなキャッチコピーを見かけて、いやどれが"虚構"だと??とか思ってました。よね??平成日本の防衛大臣があんなに主体的に動けるわけないじゃん、ていうね。そういうのは1945年かそのあとに戦中派とともに失われたんですよ。あれはある種のファンタジーの世界で、だからこそ熱狂されたわけで(蒲田くんも魅力的だったけどさ)。

なんの話かというと、あのデスクワーク勢の、当事者意識の希薄な感じは阪本監督の実感というか実体験というか、職人的職業人から見たホワイトカラーの世界というか、そういう感じなんだろうか、て思った、てことです。たぶん、坂本監督は撮ってる本数から考えても職人的な、いわゆる"なんでも撮る"タイプの監督だと思うんですが、その中で自分の経験的実感とか価値判断とか美意識とかを絶対に手放さないのがすごい腕力だなと思いました。

あとですね、前の記事で書いた「闇の子供たち」を観たときからなんとなく思っていて今回で確信したんですが、阪本監督、俳優の”良い顔”を撮るのがめちゃくちゃ上手い。全員、他の作品に出ているときの5割増しくらいでいい男/女に見える。本作、「闇の~」とは違って主要メンバーが主役クラスの俳優ばかりだったので、邦画やドラマをほとんど見てなくても見知った顔ばかりで、それでこの監督の技術力が際立っていた。

それでここからが最重要ポイントなんですが、さっき書いた地上メンバーのところもそうなんだけど、人を美しく撮るからといって、変に美化するわけではないのですよね。人の生死を無反省に美化するようなエンタメが世の中に溢れている昨今ですが(だから邦画は苦手なんですよ)、それは絶対しないんだな、ていうね。原作を読んだわけじゃないからどこまでがこの映画や監督の意図したところかは分からないんですが、主役もそれに敵対する側も、もっとヒロイックに描こうと思えば描ける題材なのに(だから観る予定なかったんだけど)、微妙にみんな不格好で無様なんですよね。だからエンタメ的盛り上がりに欠けるといえばまあそうかもしれないが、むしろこれが適切な節度なんではないか。観客の内面に踏み込まない節度というか。

逆に、閣僚とかはもっと醜悪に、あるいは単に愚かな集団として演出しようと思えばできたはず。でもそれもやらないで、ただ"論理"が違う世界として(比較的)価値中立的に描いているの面白いです。

地上組も洋上組も、もちろんテロリスト組(テロリスト組??)も単純な対立関係にしないのがこの作品の魅力の一つだと思いますが、それが監督の美点とよく合っていた。

そもそも米国の軍隊みたいに、建国の理念を背負ってるとかいうわけでもなくその成り立ちからして国民的合意の無い自衛隊を主題にした映画で、単純なカタルシスを求めるほうがおかしいんですわ(突然の暴言)。ハリウッドのアクション映画みたいになるわけないじゃん。ある意味ではエンタメ性を犠牲にしてでも、この題材を扱うときの躊躇いや後ろめたさを無視しない誠実さが、この映画の良さのひとつだと思いますし、その多くが監督の力量に負うところ大きい。

俳優陣もみんな良かったですが(監督の手腕でみんな”良い顔”してるから)中井貴一の、地上から0.5ミリくらい浮いてそうな感じとか、日本語が流暢なんだけど語彙が少ない感じとかが特殊工作員ぽくて良かった(英語でも500語くらいあれば日常会話はできるらしいので)。地球上のどこにも居場所がない、"半島を出"て来た、祖国を救うために祖国を滅ぼそうとする兵士なんですね。勝地涼の人も、あのたどたどしい振る舞いをどう評価するかは意見が分かれそうな気もしますが、個人的には"ここでしか生きられない"切実さが真に迫って良かったと思います。生きろ。

まあそういうわけでですね、邦画に関してまったくの初心者でありながらも阪本順治監督に心を奪われたので、視聴予定リストの上の方に入れておこうと思いました!!!

ていうか監督こそ健康に生きてください!!!!お願いします!!!

では!!!