窓を開ける

今のところ映画の話をしています

映画「モンタナの目撃者」を観てハンナの来し方に思いを馳せる

はい!「モンタナの目撃者」観ました!!

テイラー・シェリダンはしっかりした映画ファンに愛されてるからもういろんなところで語られてるので別に書くことないな…とか思っていたんですけど、観ている途中であれ??って思ったことがあって、誰も言ってなさそうだからとりあえず書いておきます!!!深い議論とかは期待しないでください!!!

あと開始30分くらいまでのネタバレがあるので何も知らずに観たい人は読まないでね!!!

※※※

いや主役の、アンジェリーナ・ジョリー演じるハンナさんですよ。彼女が最前線で働く山林消防士(Smokejumper、日本語の正式名称わからない、ごめん)であることは映画の冒頭に示されてまして、でそれがどういう職業なのか、というのも割と親切にてきぱきと説明があるのでその辺の混乱は無いんですけどね。

しかしながら、山林消防士という明確にホモソーシャルな職場で(そういう描写は作中にもちゃんとある)、女性であるハンナがあの地位を築くためにどれほどの努力と犠牲を積み重ねて実績を上げてきたんだろう?っていうのを考えるとマジで気が遠くなる。

体感的には、男女人数比9対1くらいの仕事の現場、しかも個人の技術力が成果に直結するような職場では、女性は実力で2倍、実績で3倍くらいの差をつけないと、「俺たちの仲間」って認められないんだよね。何かミスがあると「これだから女は」って言われて振り出しに戻る。

ハンナは過去の消火活動と救助の失敗を自分の責任として悔やんでいて(ただし作中で彼女の責任だと明言されるわけではない)、そのせいで消火活動の遂行に不安があるので最前線のパラシュート部隊から外される。そのときに同じ部隊の仲間の一人が、「上の奴は見る目ないよな」みたいなことを言って、しかも彼女が実際に技術力も度胸もあることがレクリエーションの中で示されるんだけど、いやそれだけ?てなるんよな。

ハンナが男だったら、それくらいで主人公の紹介としては確かに十分なんだけど、女で、あの組織であの立場を築いた人間として描くにはだいぶ足りない。

あのチームの中で一人くらいは、「やっぱ女は…」みたいな素振りを見せて、バーンサル演じるイーサンにどつかれる、またはほかの仲間にボコボコにされる、っていうのがあるほうがリアル。仲間内の結束は固いんですよ、ということにしたいなら、せっかく出てきた新人たちの中にバカがいて、うっかり絡んで返り討ちをくらってもいいけど。そういうのが一切なくて、地上勤務になるのを純粋に惜しまれるのは完全にファンタジーの世界ですよ。いやマジで。あの一連のシーケンス全体の説得力が減るんよ。

そういう意味で、現在進行形で、男社会の中で生き延びて力を蓄えて実績をつくろうとしている女性たちにとっては、けっこうキツい作品だと思います。なんというか、いやそれくらいの感じでそういう地位を獲得できるような社会や組織だったら、ウチらこんなに苦労してないよ??ってなる。ハンナがホモソジョーク(造語)に乗っかってるのもけっこうキツかったな…いや言われっぱなしではないんですが(当たり前)、そこ同じ土俵で会話しちゃうのか…みたいな。その場では乗っかるけどあとで公開処刑する、とかでもまあいいけど、それも無かったし…うーん。ホモソジョーク、グルーミングや蛮勇の誇示、というような役割があるのは理解できるので、描写として意味が無いとは言わないが、ハンナはそんなのに乗っからなくても仲間であることや自分の勇気を示せる、という内容のほうが絶対に良かった。そのほうがハンナの優秀さも際立つし。たぶんそれくらいできないとあの立場、地位にはなれない。ほんとに。

なにを描写するかを選択するのが監督や脚本家の仕事なので、本作ではあえてそういうところは削ったのか、それともあれで必要十分だと判断したのか、そのあたりに興味がありますが、そういう話題は(少なくとも日本語では)見つけられなかった。ハンナの私生活がほぼ出てこないのも、私生活というものが"無い"のか、あえて言及してないのかが分からなかったので監督の意図が読めない。まあ自分の読解力が無いだけかもしれないが。

テイラー・シェリダンがどこまで意識してるのか分からんが、確かにそこまでハンナ周囲の描写を入れると本作のノイズになるかもしれないけど頭抜けた傑作になった可能性もあったと思うから勿体ないよね。せっかくアンジーを主役にしたのにと思いますね。同じ尺でも台詞回しやエピソードをちょっと変えるだけで印象が変わると思うんですけどね。

もし、女性がプロフェッショナルとして働く現場(医療現場みたいな、欧米では男女比がほぼ半々になっているところではなくてあえてのあの現場で)の女性の描写としてあれくらいで十分と判断したのならそれは残念。でもあのサバイバリストの女性は良かったので今後に期待かなーっていうところです。

てかサバイバリストになって殺し屋に「サバイバリストめ!」って言われてみたいね~(いやお前は高確率で死ぬぞ???)!

いろいろ書きましたけど、映画自体はそれなりに気に入ってます。

特に、みんな大好きあの殺し屋二人組ね…完全に、炎上(比喩表現)案件に放り込まれた現場のエンジニアだったね。経験豊富なベテランと優秀で使える若手の二人組で面倒な現場に放り込まれる感じね。上司がお前たちには期待してるぞ、とか言うんだけど、それリソースが足りないのをいい感じに言ってるだけじゃん、ってなるやつね。あまりにあの感じがリアルで二人組のターン、ぜんっぜん楽しめなかったんですけども。え?そんなことないです?いやうちの職場わりとホワイトだけど、色々な仕事の記憶が蘇ってきたよ???おえぇ(一回休み)

あとニコラス・ホルトくんは、あの立派なガタイにちょっと幼い感じの顔と声で、非常に不思議な佇まいでしたね。なんか今後、すごい当たり役とかに出会って欲しいものです。いやニュークスは良かったけど、今後の年齢相応のね。

とにかく山火事怖い!!!湿度最高!梅雨のとき文句ばっかり言ってごめん!ていう感じで、筋立てがシンプルなのでシェリダンのこだわりが隅々まで楽しめる作品でした!

では!!!