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映画「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」を観てクレイグ・ガレスピー監督が気になる

クレイグ・ガレスピー
クレイグ・ギレスピー? できれば表記統一してくれないかしら…。どっちがメジャーなのかグーグル先生に聞いてみたら、ヒット数は後者のほうが倍くらいある…Wikipediaは前者なんだけど、なんでなん???

……。

………。

それはともかく!

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」、めちゃくちゃ面白かったですねー!!!!90年代のアメリカ、女子フィギュアスケート界で起きた実際のスキャンダルを、関係者の証言を基に再現ドキュメンタリー風に描いた意欲作で、アリソン・ジャネイが第90回アカデミー賞助演女優賞を獲得しています!いやもう納得の熱演でしたよ。

で、うわー面白かったー、マーゴット・ロビーはかっこいいなーとか思って作品情報を調べててようやく気付いたんですが、「クルエラ」と同じ監督だったんだね!

「クルエラ」、まあディズニーの謎の営業戦略のせいで劇場公開館数がものすごい少なくて(確か関西でいうと、大阪府内はゼロだったはず、そんなことある!?!?ディズニーのとっておきのヴィランじゃん、てかめちゃめちゃ宣伝してたじゃん!!!)、公開当時に観れなかったのをようやく!ようやく!!ついこないだ観れたんですけども、なんか偶然、その直後に「アイ,トーニャ」観てどちらも好きな感じのノリだったので、監督が同じというのがたいへん腑に落ちた。

なるほど言われてみればテイストがそっくり!監督!そのセンス大好きかもしれん!!ていうことを言いたいだけの本記事です。

ネタバレは…あんまり無いよ!「クルエラ」の話も混ざります!

「アイ,トーニャ」、扱い方によっては重苦しくて湿っぽい話になりそうな題材なのに、語り口がポップでテンポが良くて、辛辣でセンスのいいユーモアに溢れてて、音楽の入れ方がかっこよくて、なにより「タフな女」の描き方がとにかく良い。

「タフな女」、頑固で、実力があってそれを存分にふるうことを厭わない、嫌われがちな女たち。おるよね、男社会では生きづらいけど、その反発さえエネルギーにしてしまう、生き急ぎがちな女たち。往々にして不器用で、率直だから嫌われ者になりやすくて、男からも女からも距離を置かれて、世の中を上手く渡り切れなくて、それでますます強くなる、そういう女が、「アイ,トーニャ」には何人か出てきます。

そういう切実さを抱えて生きる、タフで傷だらけの女たちに対する視線がシビアだけどめちゃくちゃ優しい。彼女たちの愚かさ、ある種の醜さ、みっともなさを決して断罪はせず、ただシニカルに見つめ、笑い飛ばし、鼓舞するような眼差し。

「アイ,トーニャ」で、登場人物の一人が事件全体を総括して「バカしか出てこないバカなストーリー」というようなことを言うんですけど、観客としてもいやマジでそれよ、しか言うことないんですけど、女性陣に対しては、「バカだな」って語りかけるときの手触りがちょっと優しめなんですよね(男性陣は完全に馬鹿にされてますけど)。

現代社会のひずみと自らの素質(映画の中心人物であるトーニャも直情型でまあ大変なんですけど、選手としての彼女を育てた母親がまたすごいキャラクターで大変)がぶつかって思い通りの満たされた人生を歩めなくて心身ともに傷だらけになって生きている女たちが、自分の実力だけを頼りに道を拓いていく姿を、絶対に茶化さないのがすごい優しくて良かったです。たぶん、同じようなキャラクターで同じような人生を歩んでも、男性よりも女性のほうがたくさんの傷を負うことを良く知っているんだろうなと思う。

この映画の評価で、(少なくとも事件では加害者側である)トーニャに同情的過ぎるのではないか、というのもあったみたいですが、文字通り何も持たずに裸足で人生を始めなくてはならなかった彼女には、周囲の人間はみんな下駄を履いているように見えていただろうし、この映画の中で(マーゴット・ロビー演じる)トーニャが語っている内容は、少なくとも彼女にとっては真実なんだろうな、と思うのです。自分は当時の狂騒を直接知らないので、この映画がトーニャに同情的だとは感じなかったけど、事件が記憶にある世代だったらまた違う感想なんだろう。まあ事件の概要だけ聞いたら、同情の余地、まったく無いですからね…。

そう考えると、ガレスピー監督はそのあたりのバランス感覚が素晴らしいですね!!なんか「マジでこいつらバカだな…」って確実に思ってるんだけど、それ自体には批判的でもなく、かといって悲惨な境遇に同情するでもなく、「バカなりに一生懸命だな、ちょっと迷惑なときは離れとこ」くらいの距離感を感じる。あと、トーニャの選手としての能力というか、身体能力に関しては素直に敬意を抱いてるんだろうなーっていうのも何となくわかって良かったです。まあそうじゃないとこの題材を扱わないか。危険すぎるよ。関係者全員、ほぼ現役で存命じゃん。実際のインタビューを俳優の演技で再現するって、どんな発想よ。怒られるぞ。

この登場人物自身に語らせる手法、「クルエラ」でも使ってましたね。ヴィラン(しかも女)を主役に据えるための仕掛けのひとつとして、非常に有効に作用していると思いました。監督の撮り方との相性がいいんだと思う。

音楽の使い方も、悪趣味すれすれのかっこよさ。まあわたしの音楽センスは全くあてになりませんが。「クルエラ」でもその舞台となった60~70年代のロックがガンガン流れてテンション上がりましたが、ここぞというときに決めてくるあの感じ。映像と音楽がバラバラに進行していく場面があって、そのあとにバチっと嚙み合う決めのシーンが来るのが癖になりますね。

テンポよく細かいカット割りをつないでいくところ、登場人物自身による錯綜する語り、映像の、画面としての力強さ、音楽の入れ方、この辺りはCM監督で培われたセンスなんでしょうか。なるほどな~(なにが)

だからまあ「クルエラ」に抜擢したプロデューサーが慧眼だったってことかな!マジでいい仕事してるね!劇場公開を渋ったディズニーのことは当分許さんからな!!!

ということでクレイグ・ガレスピー監督、これからも注目していきたいと思います!「ザ・ブリザード」も観てみたいけど…手段あるのかしら…円盤レンタル??

……。

…。

では!!!