窓を開ける

今のところ映画の話をしています

映画「エルヴィス」と「幸せへのまわり道」を観てトム・ハンクスの底知れなさに腰を抜かそう

トム・ハンクスのことうっすら舐めててごめんなさい、っていう話をします…なんかこの話、書いた気がしてたけど書いてなかったので!

~本記事の概要~

自分と同じようにトム・ハンクスのことうっすら舐めてる人(失礼)はぜひ『エルヴィス』観て欲しい!!『エルヴィス』のトム・ハンクスを通過したあとの過去作、全く違って見えてすごいよ!

って言いたいだけの記事です。時期を逸しているのは否めないが、それを言ったらまあまあ何もかも今さらだよね。

……………。

いや『エルヴィス』のトム・ハンクス(エルヴィスのマネージャーを務めたパーカー大佐を演じています)、あまりにも得体が知れなくてすげー怖かったですよね!?映画館で2回観て、そのあと配信で1回観たと思う…んですが、毎回毎回、エルヴィスに語り掛けるときの真摯で親身な感じと実際にやってることの悪辣さのギャップで大混乱する。それは監督の狙い通りではあると思うんですが、それにしてもさ、「私は善い人です」って微笑みながらとんでもない所業を繰り返すのとか、エルヴィスを含めて周囲の誰も信頼してないあの感じ、まるでミダス王のように、触れるもの全てを黄金に変えるまで満足しないほどの強欲、それでもエルヴィスのことを大切なマイボーイって囁くときの優しい声音、なんかもう不気味なのにイノセントで凄まじいんですよ。

で、トム・ハンクスの出演作を全制覇しているわけではないが(なんせ多いからね…)こんなに得体のしれない底知れない感じの演技をする俳優だったっけ…と思って、そういう視点で過去の出演作を観ると、うん、そうだね!よく観たらめちゃくちゃ精密な演技をしているね!と(だいぶ遅ればせながら)気付いたのでした!ごめん!

なんていうか、演出や脚本が想定しているキャラクターの深みのさらに奥に一旦潜ってから、みんなが理解できる水準に合わせに来てる感じがするんだよね。それでもふとした瞬間に、底が抜けて垣間見える本当の奥行きには果てが無くて…みたいな。分かりにくい例えですまないね!

評判の良い出演作がたくさんあって、でも過去の出演作をどれだけ観てもトム・ハンクスという役者の全貌も真価も全然わからない、そういう気持ちになったことはありませんか。ありますよね。まあそんな感じで、映画はどれも面白いけどトム・ハンクスのこと何も分からんな…とか迷子みたいな気持ちでいたところに観た『幸せへのまわり道』、『エルヴィス』後に観たトム・ハンクス出演作の中で一番ヤバい(語彙力)なと思ったので以下はその話です!ネタバレは無いよ!

『幸せへのまわり道』、アメリカの伝説的教育番組の名物司会者フレッド・ロジャース
トム・ハンクス)と、彼を取材するジャーナリストの交流を描いた作品なんですけど、内容の話をする前にちょっといいですか!?

邦題が、ダセえ~~~~~!!!!!いいかげんにしろ!!!過去作とかぶっててもう最悪だよ!!!日和見のバカ野郎がよ!!!(特定の対象への端的な罵倒)ちなみに原題『A Beautiful Day in the Neighborhood』はフレッド・ロジャースの番組からとったタイトルなので翻訳が難しいのは理解できるが、だからといってこの邦題はマジでない。

閑話休題

映画としてはちょっと凝った構成になってて、全体がフレッド・ロジャースの番組のコーナーみたいな枠組みの中に入ってて、導入のアニメーションとかスタジオのセットとかも見ごたえがある。まあアメリカ人ならある程度みんな知ってるフォーマットなんだろうな…日本でいうと『おかあさんといっしょ』とかみたいな感じかな。

それでこのフレッド・ロジャースという人物が、なんというかもうパーフェクトなのですよね。物腰柔らかく受動的な態度でありながら、出会った人々の悩みや困難を見抜いて適切な助言を与え、癒し、必要とあらば行動するという…。そういう能動的なカウンセリングみたいなのを、ほぼ初対面の大人たちに対して行って違和感がないという稀有なキャラクター造形を、完璧にこなすトム・ハンクスな。

文章だと分かりにくいと思うんですけど(自分もそうだったので、公開当時は本作に興味が湧かなかった)、対人スキルにおいて際立った才能を持つ実在の人物を、説得力を持って演じるの、すごくないですか!?例えば楽器とかスポーツとかが上手いんだったら、編集技術やスタントダブルを駆使してなんとか頑張れそうな気もするが、本作の場合、完全にトム・ハンクスの演技力…っていうか身体のコントロール能力?が全てだからな。そういう意味では、フレッド・ロジャースとトム・ハンクスって方向性としては似たような才能の持ち主なのだろうか。いや分からんが。

でこれ『エルヴィス』と併せて観ると、トム・ハンクス(ではないが)に公私ともに依存せざるを得なかったエルヴィスの状況がものすごく理解できるんですよ。こんな、対人スキル(&自己プロデュース)の化け物みたいな人物にロックオンされて、無傷で逃げ切るなんてしょせん無理な話なのよ…。

『幸せへのまわり道』では、その才能が子供たちの健やかな成長のため、あるいは迷える大人たちを救うため、に発揮されていたのである程度は安心して観ていられるが、それにしても巨大すぎる才能に接した凡人が、それをいささか不気味に感じるのは仕方ない。その全容が掴めなくて警戒するジャーナリストの気持ちも分かるよ(わりとあっさり篭絡されるところも含めてな!)。

Wikipediaの英語ページによれば、トム・ハンクス自身は映画におけるフレッド・ロジャースをある種の”敵役”(the antagonist)と捉えていたようなので、やっぱり『エルヴィス』と『幸せへのまわり道』のトム・ハンクスは地続きなんだろうね。

という訳で世界、トム・ハンクスとフレッド・ロジャースを敵に回さなくて良かったねえ!という話なのかもしれない(そうだったのか)。

いやほんとに、人類がトム・ハンクスのどういうところに惹かれて、どういうところを畏れるのか、『幸せへのまわり道』にぜんぶ出てくるから…奇跡的なキャスティングだと思いますね、はい。逆に、トム・ハンクスについてよく分からないなあとか舐めたことを考えている場合は『エルヴィス』を観てひっくり返るのがちょうどいいと思う(オレだよ)。

『幸せへのまわり道』、地味な作品だからかトム・ハンクスのキャリアを振り返るときに言及されにくいイメージがあるけど、ちょっとびっくりするような遊び心のある仕掛けがあって、大人同士(特に男性同士)のケアの話にとどまらない複雑さもあって(主に俳優陣の良い仕事のおかげで)、トム・ハンクスの底知れぬ実力を垣間見れてすごく面白いのでおススメです!

ということで、トム・ハンクスへの理解を深めるために『エルヴィス』と『幸せへのまわり道』、どっちも観てくれよな!!!

では!!