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2023年、映画館で観たドキュメンタリー映画について振り返る

師走だーーーーー!!!!!(「紅だー!」の感じでお願いします)

ぼんやりしていたら師走ですね!!!去年と同じこと言ってるよこの人。というわけでマジで総括の時期ですが、振り返ってみると今年はドキュメンタリー映画が豊作だったな~と思いましたので(個人的観測範囲において)、その話をします!

たぶんなんですが、ノンフィクション作品て興行的には厳しい場合が多くて、公開館数も観客数も少なめでなかなか一般人の感想を目にする機会が(作り手も観客も)少ないんではなかろうかという気がします。

自分も映画館でドキュメンタリー映画を観るようになったのは去年くらいからなので超初心者だし文脈が理解できていない場合も多いと思いますが、そんな奴の感想でも無いよりはあったほうが良かろう、ということでジャンルの盛り上がりを祈念して置いておきます。ちなみに教育テレビ(Eテレ)とかでやってるドキュメンタリーもけっこう好き。

本稿で(ぜんぜん関係ないけど”本稿”って執筆中の記事につかう言葉らしいので、厳密にはここで使うのは間違いかもしれない)言及する作品は以下の9本!(多いな)

『チーム・ジンバブエのソムリエたち』『モリコーネ 映画が恋した作曲家』『夢の裏側』『ナワリヌイ』『世界のはしっこ、ちいさな教室』『ぼくたちの哲学教室』『アダマン号に乗って』『燃えあがる女性記者たち』『アダミアニ 祈りの谷』

まあネタバレとかで面白さが減ずるような作品たちではないですが(そもそもがドキュメンタリーだし)、もう何も気にせず感想を書くので、未見かつ事前に何も知りたくない方は自衛してください。

どれも観て損はないのでね!こんなところに来てないで映画を観てよね!(言い草がひどい)

『チーム・ジンバブエのソムリエたち』

2023年の劇場はじめが本作だったんですよね~!思い起こせばドキュメンタリーに始まった1年であった。

南アフリカの難民事情については何も知らなかったが、本作の主人公たちがパリッとした服を着てソムリエとして勤めながら、この前までホームレスだったよ、とかレストランの裏庭の掃除を手伝うところから始めたんだ、とか、家族と離れた話とか、そういう身の上話をさらっとしてくれるのに打ちのめされてしまった。

しかし彼らは非常にガッツに溢れポジティブで、作品全体としてはもちろん成功譚なので、仕事始めに相応しい内容ではあります。ところでワインソムリエという職業であることは南アフリカにおいてはたぶん重要なポイントで、白人が上流階級を占めている社会で、あまり出自に関係なく才能と努力とチャンスがあれば社会の上層、ひいてはヨーロッパにまで連なる社会構造に食い込める、稀有な職業なのであろうと思われる。

似たようなテーマのフィクション作品でフランスが舞台の『ウィ、シェフ!』も観たのですが、難民とかのバックグラウンドが多様かつ資本を持たない移住者をどうやって社会に包摂するか、という社会的課題の切迫度を感じました。

 

モリコーネ 映画が恋した作曲家』

みんな大好きモリコーネの業績について、インタビューやら映像を駆使してしっかりまとめてあって非常に勉強になりました。生前のインタビューが間に合って良かったねえ。とにかく資料映像や映画の引用が豊富で、観たことのある映画でもこういう文脈で説明されるとまた違う良さや価値に気付く、みたいなのもたくさんありました。

いわゆる「純粋音楽」と比べて「映画音楽」は音楽業界では低く扱われており、モリコーネの現代音楽に対する貢献がきちんと評価されて来なかったのではないか、という問題意識が感じられましたね。なるほど…。

そこで思い起こすのは、ほぼ同時代を生きた武満徹ですよ(2歳差!)。もちろん音楽的に評価が高いのは自分でさえ理解していますが、映画音楽についてもかなりハイレベルの仕事をしてますよね(『切腹』とか)。それは武満徹自身や、当時の音楽業界にとってはどういう位置づけの仕事だったんだろう…というのが気になりました。その辺をまとめた評論とかどっかにあるんかな。

ところで本作と『TAR/ター』のおかげでなんかクラシック音楽業界のにわか知識が増えた1年だったですね。

 

『夢の裏側』

これはちょっとイレギュラーですが…。中国映画『シャドウプレイ』の撮影ドキュメンタリーを、ロウ・イエ監督のパートナーである映像作家マー・インリーが監督として撮ったものです。広州でのロケハンから編集作業まで、映画をつくるのって大変なんだな~…っていう(なんだその感想は)。「映画を撮る」ことに必要とされる覚悟が、日本とはちょっと質が違うよね。ロウ・イエ監督自身は(検閲について尋ねられて)「映画はしょせん映画だよ」って言ってたのが面白かったです。

 

『ナワリヌイ』

ロシアで最も有名な反体制活動家を追ったドキュメンタリー。事実は小説より奇なり、という慣用句がこれほど相応しいドキュメンタリーがあるだろうか。中盤からはスパイ映画か何かを見せられてるんかと思った。そして衝撃の(しかしそういやニュースで観たな、て思い出した)ラスト。割と淡々と、近年の活動やご本人のスピーチを捉えた映像作品ではあるが、あふれ出る人間的魅力や統率力に、これがカリスマか…てなりました。家族や周囲のサポートも、覚悟が決まっててすごかったです。

ロシアはどうなって行くのだろうか。とりあえず侵略戦争をやめて欲しいが。

 

『世界のはしっこ、ちいさな教室』

あまり学校制度が整備されていない世界各地で、初等教育に奔走する3人の先生の話!舞台になるのはシベリア、ブルキナファソバングラデシュです。

教育というのが、子供たちや彼らの属する社会にとってどれほど大切なことか、そして教師と生徒の双方にとってどれほど喜びに満ちたものであるか、そういうことが衒いなく映し出されていて、胸を打たれてしみじみと泣いてしまった。

自腹で購入したソーラーパネルを担いで、あるいは荒野にトナカイを駆って、また様々な立場からの反対の声を撥ねつけて、先生たちは子供たちに彼ら自身の将来と、共同体の未来を手渡すのですね。

教育は、人間社会を成り立たせるための本質的な営為である、というのが瑞々しい映像とともに伝わってくるよい映画でした。色々なところで広く長く上映されて欲しい作品です。

 

『ぼくたちの哲学教室』

北アイルランド紛争から続く住民同士の対立や貧困が地域の発展を阻んでいるベルファストで、小学生に哲学を教える先生の話!

「道徳」などという生ぬるい思想では歯が立たない、とてもシビアな状況(親類縁者が誰かしら最近の紛争で亡くなっている、学校を出ても仕事が無く暴力犯罪やドラッグ売買に巻き込まれる、知人に自殺者が多く、将来に希望を持てない、など)をサバイブするために、子供たちに本物の哲学を教えている校長先生。この校長先生もベルファスト出身で、かなり個性的なキャラクターの人物で、この人自身が、少年たちにとって数少ないロールモデルになっていることも分かる。

この校長先生をはじめとした先生方の献身と情熱に圧倒されましたね…幸福な人生のために、本当に必要なものは何か?ということを考え抜いた哲学の知恵を子供たちが身につけるべきだという信念も含め、素晴らしかったです。

親や兄弟が「殴られたら殴り返せ、お前のおじいちゃんは隣人に殺されたんだぞ」とか言うような家庭環境に育つ子供たちに、教育者が何をすべきか、何ができるか、ていう話よね。

ちなみにパンフレットがめちゃくちゃ充実していて、ちょっとした新書一冊分くらいの情報量があった。

 

『アダマン号に乗って』

パリ市内、セーヌ川に浮かぶように建てられた精神疾患者向けデイケアセンターの日々を捉えたドキュメンタリー。

フランスでも精神疾患を抱えた人たちを「普通の人」からなるべく遠ざけようという動きと、地域社会で包摂せねばならない、という運動のせめぎ合いがあったらしいが、本作で被写体となっているアダマン号は後者のひとつの到達点のように見える。医学的には「精度精神療法」という理論(?)の実践の場として運営されているらしい。

こないだ知的障碍者支援施設の事件を扱った邦画を批判した記事がちょっと話題になっていたが、自分はその邦画のほうを観ていないことを留保したうえで、このドキュメンタリーに描かれているのはまさに人間の生活そのものであると思った。それぞれが好きなこと、得意なこと、できること、できないことがあり、その範囲で役割を果たしながら「アダマン号」という場を運営しており、生活という存在自体に無限の価値がある。

社会のあちこちで人間性が疎外されていくこの時代に、アダマン号があることを喜びたい。世界がアダマン号のようであれば、私たちはもっと安心して年老いたり、傷ついたり、休憩したり、いたわりあったりできるだろうに、と思う。

文具で知られるコクヨが出している尖った雑誌「WORKSIGHT」20号にアダマン号の取材記事があり、パンフレットとはまた違う角度からの副読本になるのでおススメ。

 

『燃えあがる女性記者たち』

インド北部のあまり裕福でない地域で、女性だけの報道局で記者として働く女性たちの話!

そもそも女性が働きに出ることが良く思われない(配偶者や男性親族の能力不足とみなされるため)、下位カースト(またはカースト外)や女性の立場や権利は尊重されない、職業や学歴で大きな分断がある、などの何重苦かを気合と工夫で乗り越えて、地域社会の環境や労働問題、不公正に寄り添った報道を続けて人々の信頼を得ている彼女たちの姿に感銘を受けました。

スマホを使ったゲリラ的な動画配信や手作り感とスピード感あふれるニュース製作など、フットワークの軽い運営が印象的でしたね。

新書『インド残酷物語 世界一たくましい民』で読んだうねるようなダイナミズムの一端が垣間見れて良かったです。いや~、極東の島国から見ると何もかもが桁違いなんだよなあ~~~!

 

『アダミアニ 祈りの谷』

ジョージア東部の山岳地帯パンキシ渓谷に200年前から住むキスト人。チェチェンにルーツを持ち、固有の生活スタイルで暮らす彼らの生活を映したドキュメンタリー。

今年は『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』という可愛らしいロマンス・ムービーを観たのでちょっとジョージアに親しみが湧いており、この『アダミアニ 祈りの谷』は、ジョージア内でも特異な位置づけの地域を舞台にし、日本人監督が撮ったらしい、という前情報を得て興味を持ったので観に行きました。

背景の説明はややこしいので避けますが、地図をちらっと見るだけでも大変そうな地域であることが分かります。特に第二次チェチェン紛争(1999年~)のときに多数の難民を受け入れた頃から、欧米主導の「テロとの戦い」におけるテロリストの温床と目され、困難な立場に置かれたらしい。

そういうバックグラウンドのもとで、日々の生活や美しい景色を発信して無理解や偏見の払拭に努める人々の姿がメインではあるが、政治的にシビアな状況は新しい悲劇や対立を生むという現実も、カメラは映している。

本作は2019年頃までの話で終わっているのですが、このあとロシアがウクライナに侵攻し、イスラエルのガザ攻撃まで始まって、この映画に出てきた人たちはみんな大丈夫だろうか、と考え込んでしまった。撮影時点でさえ、家族になかなか会えなかったりムスリムだからと辛い目に会っていたりしたのに…。でもパンフレットに、監督自身による出演者へのインタビューが載っていて、2023年夏頃の様子がちょっと知れて良かったです。

あまり前景化はしていないが、「いま撮っておかなければ」という監督の切迫感が本作完成のきっかけのひとつなのではないか。それが杞憂に終わり、平穏な現在とひらけた未来が訪れることを願います。

こうやって振り返ると、わりと世界各地、バラエティーに富んだラインナップでしたね!こんなに色んな映画が映画館で観れる日本の映画産業、ありがたいぜ…引き続きよろしく頼むね。

ドキュメンタリーを観ることの間接的(?)な効果として、世界各地で紛争や災害が起きた時に、あの人たちは無事だろうか、とか幸せに暮らせているだろうか、とか考える想像力が補強される、というのがあります。あるんだよ。

だからもっとドキュメンタリー界隈が盛り上がって欲しいですね!という気持ちを込めて、本記事を締めくくりたいと思います!!

(……やっぱり地方とかに住んでると視聴のハードルが高いから、そのへんにどうアプローチするかが考えどころですよね。学校を巡回するとか?そういう補助制度みたいなの無いんか?配信サービスとかと上手く補い合えるといいんだけど……)

ということで、観れる人はせっかくなのでドキュメンタリー映画を観よう!映画がハードル高かったら(鑑賞料金も高いし)、Eテレでやってる海外ドキュメンタリーを観てみようね!!!面白いよ!

 

では!!!!!