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映画「サムシング・イン・ザ・ダート」を君たちはどう観たか

いやどう観たっていいんですよ、いいんですけどね。あまりにも(日本語の)周辺情報が無さ過ぎ、観た人の意見が分かれすぎ、そもそも観た人が少なすぎ、ということで、自分と同意見の人を見つけられなかったのでちょっと書き残しておこうかと…。

従いまして、以下、ネタバレしかありません!!てかネタバレ無しでストーリーの説明するの無理じゃない!?!?!

あのー、観た人みんな、以下の解釈には同意頂けると思うんですよ。

 ・二人の男性の、出会いから別れまでを扱った作品である

 ・映像がいくつかの物語上の階層に別れたメタ構造になっている

でも、じゃあ上映された映画のどこからどこまでが、映画の世界で実際に起こったことで、どの部分が、作中の二人が製作した映像なのか?この辺りの境界が、わざと分かりにくいように編集してある、と感じました。

上記を踏まえ、また映像そのものについて考えた結果、自分は「最初から最後まで、エンドロール以外のすべてが、二人が撮った映像作品(フェイクドキュメンタリー)である」という解釈をとっています。

ここから先、なぜそう考えたか、の説明になります。が、別にこれが正解だという気は全く無いからね!作品そのもの以外の根拠は皆無なので!1回しか観てないし、パンフレットとかなんもないし…さみしい…。

なんにせよ素人の与太話なので、話半分でお願いしますね!(予防線)

ややこしくなりそうなので、まず私が考えている本作の世界構造を整理しておきます。

 ① 本作が製作され、観客(我々)がそれを見ている現実の世界

 ② リーヴァイとジョンが生きて生活している世界

 ③ ②の世界でリーヴァイとジョンが製作した(フェイクドキュメンタリー)映像

 ④ ③で製作した(フェイク)ドキュメンタリーの中の(石が宙に浮く)世界

①はまあいいとして、つまりこの映画『サムシング・イン・ザ・ダート』は③そのものである、というのが私の立場です。

そして、超常現象は②の世界では一切起きておらず、映像は全て②の二人が③用に撮影し、④の世界を説明するために映像クリエイターの協力を仰いで用意したもの、と考えています。ただちょっと全体を複雑にしているのが、②で普通に日常生活を撮った映像を、③に流用してる部分がありそう、ってところですね。②と④の地続き感というか、③のドキュメンタリーっぽさの底上げになっていると思うんですが、それが②の二人(または作品を仕上げたジョン)がどこまで意図したものかが分からない。分からないようにわざと①の製作陣が攪乱しているようにも思えるので。

では、②におけるメインストーリーとは何か。

「パートナーと分かれて傷心に沈む男と、身寄りも将来の当てもない寄る辺ない男が出会い、奇妙な映像制作プロジェクトを通じて友情を育むが、一人が亡くなってしまい、それを悼むために映像作品を完成させる」

ではないでしょうか、ということです。

以下、時系列で詳細です。何度も言うけど何もかもが推測だよ!本編以外の根拠は無いからね!

【1】引っ越してきたリーヴァイが変な灰皿を見つける→先住のジョンもそんなの知らんて言うけどこれをきっかけに仲良くなる

【2】ジョンが数学教師だったのは②の世界で本当のことで、傷心のあまりちょっと陰謀論ぽいネタにハマって、レンタサイクルの仕事をして街中をよく移動することもあり、ロサンゼルスの街の歴史に詳しくなっていた(なんか『帝都物語』みたいで面白いよね)

【3】二人ともヒマで将来の展望に乏しい時期だったので、なんか一攫千金狙えないかな?ってことで変な灰皿と陰謀論ネタでフェイクドキュメンタリーをつくることにする

【4】適当に専門家っぽいコメントを知り合いの知り合いとかにもらったり、特殊効果をつかった映像制作を進める

【5】季節のイベントなどを経て友情を深めるが、ちょっと喧嘩したりもする

【6】年越しの夜、リーヴァイが転落死してしまう

【7】身寄りもなく自殺か事故かも分からない、ジョンしか悼むことのできないリーヴァイの死を語るために、ジョンはこのフェイクドキュメンタリー『サムシング・イン・ザ・ダート』を完成させた

【8】または、もう少しハッピーエンド寄りの解釈として、リーヴァイは(人生をやり直すために)失踪して、リーヴァイはそれを尊重して二人の物語を終わらせるために本作を完成させた

自分も映画を観ている途中までは、②と④の世界がイコールなのかな?と思っていたのですが(映画の中の出来事を素直に受け取るとそうなる)、途中で出てきた専門家たちの証言映像で考えを改めました。

あの証言映像に出ている人たちは、②の世界の人で、③のもっともらしさを補強するために②の二人がカメラの前で喋らせた、という建付けですよね。ただし②と④がイコールだという前提で。

その建前で観ていると、見過ごせない違和感がいくつかあったと思うんですよ。

具体的には(といってもあまり覚えてないが)、特殊効果アーティスト(?)の何人目かの人が、作業が多すぎてみんな匙を投げて自分のところに仕事が来た、みたいなことを言ってたのと、確か熱の影響でハードディスクが壊れた(ただし②と④のどちらで起きたことなのかは不明)後に、だからって何で全部イチから作らなきゃいけないの、というようなことを言っていた。で、これって本当にドキュメンタリーだったら不要な証言なので、石が宙に浮いた映像とかに対してフェイクだという指摘が来た場合のエクスキューズとして入れていると考えられる。ということは、超常現象を撮った映像は全部フェイクで、だとしたらそもそも「ドキュメンタリーを撮ろうとしている」という前提(②と④がイコールだった場合ね)自体が揺らぐ。

そんなことを考えていたらまた証言者の誰かが(記憶が曖昧なのですが)、最初に専門家として出てきた女性のことを、あの人は超常現象の専門家なんかじゃないよ、というようなことを言い出して、そしたらすべての前提がひっくり返るが!?となったのでした。

超常現象の専門家ではない人にそれっぽく喋らせた→ということは、超常現象の専門家に出演してもらえるような内容ではない(つまり②の世界では超常現象は発生しておらず、③に映っている④の世界はフェイクである)ってことになりませんか。

そうやって思い返してみると、黄金比の話をしているところとか、ぺらぺら喋るジョンと思わせぶりなコラージュ映像しか出てこないしね。

なので、②と④は別物であり、②の世界で超常現象は起きておらず、③はドキュメンタリーではなくフェイクドキュメンタリーである、という判断になりました。

あとはタイトルですね。③の中で、ドキュメンタリーのタイトルは『サムシング・イン・ザ・ダート』にしよう、って(確かジョンが)言ってて、①の我々に提示されたのが同タイトルなので、素直に②の二人がつくったフェイクドキュメンタリーを見せられてる、と解釈してもそんなに変ではない気がしています。

それからジョンはキリスト教原理主義系宗派の信者だという話が出てくるんですけど(あんまり聞き取れなかったので曖昧ですが)、キリスト教の葬儀で唱えられる"Ashes to ashes, dust to dust"(土は土に、塵は塵に)ていうお祈りがあるじゃないですか。なんか本作のタイトルはそれを思い出させるな~、とか(英語ネイティブじゃないから的外れかもしれないけど)。

公式とかが出してる粗筋や紹介文を注意深く読むと、上記のような解釈の可能性も排除してないと思えるんですが…、どうでしょうね。

まあ思い返すと、カメラの動きとか細かいところで辻褄が合わないところもある気がするな。前半なんか特に、何が始まるのか分かんなかったからあんまり覚えてないんよな。わざと時系列を曖昧にしてある箇所もあったよね?それか、②でのリーヴァイ退場後にジョンが残った映像を繋ぎ合わせて作ったから、④の設定に混乱している部分がある、っていう演出なのか?

いや~分からんなこれ!やっぱり映画自体は②と③のハイブリッドなのかなあ…(急に弱気)。③を見せられていた、っていうオチのほうが個人的には好みなんだけどな…。

しかしたぶんこういう解釈になるのって、SFとかミステリーの読み過ぎだと思う(自分で書いといてなんですが)。SFやミステリーって、一見つながりのない、辻褄の合わない出来事や証言が、世界のレイヤーの次元を一段上げると整合性のとれた理屈の通った物語になるはず、っていう強固な思い込みによって成立するジャンルなので。じゃないと謎解きとかあほらしくてできないし、最後まで読み通す気力が湧かないじゃない…。たまにそのお約束を破る作品もあるけど、禁じ手だから二度と使えないし、実際にはあんまり面白くないんよね。

閑話休題

あと、本作を最後まで観終わってから、雰囲気とかテーマが映画『スターフィッシュ』にちょっと似てるなと思いました。『スターフィッシュ』は親友のお葬式から始まる物語だけど、あちらも親友の死をどう悼むか?残された側は、どんなメッセージを受け取ることができるのか?という話を、SFのフォーマットでやっていたよね。SFなんだけど、『サムシング・イン・ザ・ダート』は監督二人が主演を兼ねていたことで虚実の境が曖昧になっていて、『スターフィッシュ』は監督が実際に友人を喪った出来事を物語に書き起こして、(①の世界との繋がりを強く想起させる)不思議な現実感があった。

どちらの作品にもある種の切実さがあり、こういう語り口でしか語り得ない出会いや別れが、人生には時々ある、ということなのかな、と思ったりしました。

ということで、『サムシング・イン・ザ・ダート』の話でした!変な映画だけど刺さる人には刺さると思うよ!知らんけど!

機会があったら観てみてよね!

では!!!