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今のところ映画の話をしています

映画「はじまりへの旅」を観てアメリカの底力に嘆息する

これはね!ここで当方が凡百の言葉を並べるより、最高に素晴らしいぬまがささん(ブログ→ 沼の見える街 )の紹介漫画があるので貼っておきますね!!!

cinema.ne.jp

いやもうこちら読んでいただければ、ていうか映画本編を観て頂ければ特になにも言うことは無いんですが!

いや~~~~良い映画でしたよ~~~~

テーマはけっこう複雑で、誰もが頷けるような内容ではないんですが、エンタメとしての出来栄えが大変によいのですよ!!よくぞこのテーマをきちんとエンタメにしたな!っていう驚きがありました。とにかく子供たちが元気いっぱいで、世界はきらきら眩しくて、鋭い社会批評と、ビターだけどポジティブな人間観があって、タフで優しい家族の物語です。

以下、いくつかの項目に沿ってわーわー言うとりますが、ネタバレしてないとは思うけども、自信はないのでよろしくです!!!

 

アメリカ広いな大きいな

この話が成り立つの、アメリカしかない。アメリカというのは本当にユニークな国家だなと改めて感心しましたよ。ここ数十年の間、国際的な覇権を握ってるからアメリカがグローバルスタンダード、みたいなことになってるけど、よく考えたら変な共同体だよな、アメリカ。建国の物語が共同体の理想を語るのってなかなか無いよね。国家より先に市民がある、みたいなのが共通認識として深く浸透している。

それでアメリカ発のいろんな物語で、自立したアメリカ人の理想、みたいな自給自足の孤高の中年男性が出てくることが良くあるんですが、それの極北みたいな生活をしている一家が主人公なのです。世捨て人のような、非常に聡明で勇気と実力のある一匹狼、というのはよほどアメリカ人にとっての理想なのであろう。しかしそれが家族となるとどうか、ていうかなぜそんな生活をしているのか、が物語上の鍵のひとつになります。

ちなみに主人公一家と似たような、定住しない生き方をしている家族と出会う場面もあって、そういう人たちとも違う孤高さ(孤高さ?)を際立たせていた。

あとやっぱりアメリカ広いからさ、景色がダイナミックに移り変わるのがロードムービーの面白さを支えてるよね。あとで確認したら結構な距離を移動していてちょっとびっくりしました。

そういう旅を経ての、最後の最後、ラストシーンの穏やかな美しさはほとんど宗教画の様相であった。オランダ黄金時代の絵画で、フェルメールに代表されるような、卑近な日常の一瞬を精緻に描くと宗教性を帯びる、みたいなそういう美しさです。

ラストだけじゃなく、主人公一家の生活の場面すべてのディテール、生活用品、小物類、細部まで信仰にも似た思い入れを感じるような素晴らしい出来栄えでした。隅々まで思想が行き届いているのがよく分かる。

ちなみに信仰の話は物語の中での重要な話題のひとつですが、特に宗教的なモチーフが強調されるわけではないです。ただ、アメリカというのはものすごく宗教的な国家だというのはよく言われていて、本作でそのことを強く意識させられるのは間違いない。そういう意味でもアメリカだな~~って思う映画でした。

ヴィゴ・モーテンセンは良い役者であった(今さらごめん)

まじで今さらすみません。ブロックバスター系の映画しか見て来なかったからさ、アラゴルン以降のキャリア知らんのよ(以前も知らんが)。

役者本人の、大自然に囲まれて伸び伸びと育ったシャイな野生児、っていうキャラクターをそのまま活かしたようなよい配役で、よい演技でした。何かを背負った男、っていうの本当によく似合うな!知らんけど。自然の中で、自らに課した規律に従って自由に振る舞っているときの生命力に溢れている感じ、それを妨げる存在への酷薄さ、そういうのが全身からにじみ出ていて大変良かったです。

・6人兄弟、みんなファンタスティック。特に長男、お前が天使だよ!!

生真面目で賢い長男、聡明で穏やかな双子の姉妹、はねっ返りの次男、独自路線を突き進む三女、好奇心旺盛な三男、みんな可能性の塊ですごかった。なんかヴィゴ・モーテンセン演じるお父さんが文武両道のすごいスパルタ親父なんだけど、子供たちは普通にカリキュラムをこなしてて、さらにその上をいく可能性に満ちてて、その輝きが本当に眩しくて、人間の可能性を心底信じてる人たちがつくった映画なんだなあと思いました。

で、長男よ。準主役くらいの扱いの長男は、成人間近という年齢的なこともあって父親の片腕のようなことをやっていて、母親との結びつきも強い。両親が定めた家族のルールをいちばん内面化している"優等生"的なキャラクターなのですが、彼が本来持つ善良さ、優しさが(本人が自覚する以上に)大切に守り育てられていることに感動するし、それが世の中にもたらす奇跡のような瞬間があまりに美しくて、浮世離れした言動に笑いながら、でもものすごく胸打たれる。ダメな社会にもたらされた福音のような存在だなあと思って、まさに天使だよな、ってなりました。彼のような青年が育ったことで、父親が社会から免罪されるというか、赦されるような側面もあるんだけど、そんな枠にとどまらない素晴らしいキャラクターでした。もちろん、そんな安易な”赦し”に乗っかるような映画ではないのですが、一応。

この魅力的な役を演じた俳優、どっかで見たなと思って調べたら、かの大作「1917 命をかけた伝令」で主役を張っていました。若き実力派だった。今後の活躍を期待しています!

まあひとつ注文があるとすれば、本作のサブストーリー(?)として長男の(いろんな意味での)旅立ちと次男の世界との和解があるんですけど、欲を言えば女の子たちの話をもっと観たかったですね。たぶんバックグラウンドとしてはあるんだろうけど尺のバランスとかの関係でなくなったんだろうけどさ、彼女たちがサバイブしていく過程もめちゃくちゃ面白いと思うなあ!!!

・一家のスタイリングが最高

野生児一味のくせにオシャレだな…っていう。機能美と、各人の美意識を足して2で割らない感じの装備が最高にかっこいいです。さらにただのナチュラル系オシャレかと思いきや、かれらの"勝負服"がヤバいです。すばらしいスタイリングです(スクショした)(するな)。演出のキレと併せてめちゃくちゃかっこいいシーン、美しいシーンがあってマジでアガる。ひゅ~~~!!

・邦題がイマイチ

本作の数少ない欠点のうちで最大のものがこの個性のない邦題だと思うんですよ!”はじまり”も”旅”もよく使われてる単語すぎて内容とリンクしないんよ。だって「はじまりへの旅」を誰かに勧められて、あとで機会があったときに、あ、あれか~見よっかな~てなるか?ならないよねえぇ~~~~。せいぜい、どっかで聞いたことあるな~くらいでしょうが。自分もそういうのいっぱいあるから分かるんですよ、外国の俳優の名前や顔も、普通は覚えてないからさ、例えばテレビで放送したとしても、積極的に観てみようという気持ちにならないと思うんですよねえぇ~~~難しいね~~~。

それでいうと、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」とか「君の名前で僕を呼んで」とか「6才のボクが,大人になるまで。」とか、ナイス邦題と思いますね。本作も原題の「CAPTAIN FANTASTIC」を活かしてなんかいい邦題をつけて欲しかったですね、"とてつもなくイケてる一家の奇想天外でナイスな冒険"、みたいな感じのやつ(難しいことを言うな)。

・まとめ

とにかく良かったのでみんな観よう!!!もう観た??ならオッケー!!

前の記事もそうなんですけど、自分がめちゃくちゃ気に入ってるのにあまり熱心なレビューを見かけなかったりすると、書かなきゃ!みたいな使命感に燃えるよね。ちょっとでも推したいよね。

ところで久々に小見出しっぽいものをつけてみたんだけど、小見出しをつけると記事が長くなりがちで良しわるしだなと思いました!

では!!!