みんなが観たかった北村有起哉のハッピーセットだよ~!!やったね!!!
ということで、「終末の探偵」を観ました!ポスターにもなっているメインビジュアル(北村有起哉がアップで煙草を吸ってるやつね)があまりにもかっこいいので、滅多に観ない邦画だけど観たわけですが、大正解でした!これは好きなやつだった!!!
本作の魅力は、なんと言ってもハードボイルドとしての由緒正しさでしょう!こんな真正面から、いま、ここを舞台にしたハードボイルド探偵ものが観れるとは思ってなかったのでちょっとびっくりしつつも嬉しかったです。もちろん今の時代に相応しい新鮮さもある!そこが良い!
ということで、以下、独断と偏見に基づくハードボイルド的見どころを列挙していきたいと思います。
ちなみに自分はVシネにはまったく疎いので、そちら方面の文脈はぜんっぜん理解できておりません…すみません。
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致命的なネタバレはしてないつもりです!
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<探偵のキャラクター造形とか>
- 繁華街の雑居ビルに間借りしている探偵(という名の何でも屋)
ほらもうみんなが好きなやつじゃん!!(主語が大きい)昭和の昔から深海に隠れ棲んでたシーラカンスが浮上してきたみたいだ!!50年前に時が止まったんか??って言いたくなるようなキャラクター造形を衒いなくやってて偉いよ!ただし画面に映る以外の探偵の過去はほぼ謎なまま終わるのと、彼自身には”らしさ”への拘りが無さそうなところが、今っぽくて良いですよね。まあ男らしさとか、探偵らしさとか、そんなものに拘ってられないくらい生活がギリギリだという話なのかも知れないが。変な屈託が無くて、飄々として自由なところ、巻き込まれ型の探偵に必要な要素だけを凝縮した結果だよ、て感じがしてとっても良い。
- とにかくお金が無い(借金ならある)
お金が無いのはあれですね、口は悪いけど義理堅くて人情家だからだね…だから面倒事に巻き込まれて愚痴る羽目になるんだけど、まあハードボイルド探偵ってそういうものだから(?)。自分の生命力だけを頼りに生きてる感じがね。
- 喧嘩が強い、というより打たれ強いので負けない
喧嘩が強い(かどうかは微妙に評価が分かれそうではあるが)のも、社会のグレーゾーンで生きていくために必要で、かつ変に警戒されない程度のギリギリの強さ、みたいなのを見極めてる感じがするんだけど、それも場末の探偵っぽさがあっていいよね!そこに至るまでにはすげー色々あったんだろうなあ、という過去を感じさせるのも上手い。
- 当然のようにヘビースモーカー、そして紫煙に紛れるおじさんの感傷
まあとにかく紫煙をくゆらす絵面が素晴らしいよね!煙草、煙たいから実生活ではちょっと離れててもらいたいが、場末の探偵なら当然ヘビースモーカーだよな!!!たくさんの言葉を呑み込んだ代わりに吐き出す煙、煙の向こうに隠れる真情…。この世界では、やっぱり(やっぱり?)インテリ系反社会的自営業の皆さんは電子タバコ派だったりするんでしょうか。
<脇を固める皆さん>
- 反社会的組織の中間管理職おじさんとの腐れ縁
これはもうね、ハードボイルド探偵の必要条件だからね!次の試験に出るよ!(出ないよ)それはともかく、冒頭のエピソードから主人公との関係をさらっと説明する手際にほれぼれしたが、松角洋平の演じる若頭(?)、ガタイが良くてフィジカル強そうなのに経営者のスマートさを身に纏ってイケちらかしていた。やっぱり、見た目がよれよれの探偵の横にはこういうオジサンがいて欲しいよね!互いの事情を呑み込んだ短くて素っ気ない会話、生まれ育った街への愛着を率直に語る寂しげな横顔、見たいものを見せてくれてありがとう!という気持ちだよ。
あと引き連れてる番犬(比喩表現)二人もいい味だよね…若頭との個性の違いが互いの魅力を引き立て合っていた。キャスティングとスタイリングが最高。サンキュ!
- 街を牛耳る新興勢力の頭(かしら)
親友が若頭なら、敵対するキャラクターも当然おるよね…出で立ちも言動も、すべて素晴らしい造形でしたよ。テンプレ感を上手く利用して人物造形についての説明を適当に省いていて、話がテキパキ進むのが観てて気持ちいい。主人公の造形もそうなんだけど、”見ればだいたい分かる”ことについては言葉を費やさずに、場面がどんどん展開していくのが映画全体にドライブ感を与えてて、作り方が上手いなあと思いました。
もちろんこの頭(かしら)を演じた古山憲太郎の、荒っぽいけど繊細な佇まいがあってこその説得力だと思います。映画全体のトーンにも通じるところがある。
- 厄介な依頼を持ち込む訳アリ美女
- 面倒見の良い町内会のご老人
この二人もさあ、記号的にはもちろんハードボイルド探偵ものに必要な登場人物なんだけど、そういうキャラクターである必然性、いまの日本の都会にそういう人たちがいる理由が、きっちり説明されてて、裏稼業の皆さんの”見たら分かる”テンプレ感との対比というか、まさに今、観客と同じ世界にいる現実の人間だと分からせるそのさじ加減が上手い。
前項の新興勢力の皆さんと併せて、彼らは、この街を構成しているのは誰なのか?ということをその存在自体で語る人々でもある。ずっとその街で暮らし、そこでしか生きていけない人々にフォーカスすることで、街そのものを描いていまの日本の一側面を(ハードボイルドというジャンルの道具立てを用いて)描きたい、という製作陣の心意気に胸打たれますね。
<ストーリーとか背景とか>
- 渋々引き受けた依頼からの巻き込まれ展開
- 社会的弱者への優しい視線とささやかな連帯
- 失われゆくものたちへのドライな哀惜
いやもう、こんなのみんな好きじゃろ!?(二回目)チャンドラーから連綿と続く(たぶん)、乾いた感傷と他者への寛容。探偵自身は触媒となって、人々に変化をもたらしつつ絡まり合った因果をほどいていくような物語。
あと、ハードボイルド探偵ものって、ちょっとした群像劇みたいに、街そのものが主役というか主題になってたりするのがいいよね。
本作の本当の主役は、たぶん舞台となった街そのものですよね。様々な立場の人々が「この街も変わったなあ」とため息交じりに呟くような街。探偵を筆頭に古い住人たちは、人間的な尺度を超えて世の中は変わり続けるから、取り残されてもまたどこかで居場所を見つけて生きていくだけ…と思ってるみたいな、オジサンたちの分別ある諦念も味わい深くて、実にハードボイルドですね。
そしてその諦念は、その街の新しい住人である若者たち、そこに流れ着いた人たちを拒絶しない意思の表明でもある。変わりゆく街が彼らを受け入れるなら、それも必然として引き受けるんですね。まあもちろん殴られたら殴り返すし、非寛容には非寛容を以て対峙するわけですが。
若者たちが、ちょっとした出会いによる小さな希望を見出していたのも良かったですね。疲れ切ったオジサンたちには持ち得ない甘さと楽観が、陽光に照らされてきらきらと輝いていた。探偵自身はそこに入らない(入れない)、そういう距離感が紛う方なきハードボイルドなんですよ、たぶんね。
最後に語られる現実のシビアさに対して希望があまりにもささやかだけど、ラストの雰囲気が殺伐となり過ぎないのは、北村有起哉がちょうどいいさじ加減で見せてくれる愛嬌とか人間性のおかげかなあと思います。そういうところでも北村有起哉の良さをしっかり味わえるよ!ありがとう!
<その他>
- 各キャラの個性を雄弁に語るアクション
アクションにはまったく詳しくないですが、それでも色々と工夫があって面白いなあと思いながら観ました。主人公が単身殴り込みに行く場面で、あまりにもヨレヨレしているのに打たれ強くてちゃんと止めを刺すところ、感心しながら笑ってしまった。分かるよ、裏家業で生き延びようと思ったらそういう仕上げの丁寧さが大事だよね、知らんけど。長回しで割としっかり所作を見せてくれるのも(演じる方は大変だったと思うけど)、丁寧でいいシーンだなあ~と思いました。
で、新旧のヘッドによるタイマン勝負ね。二人とも全力で正面衝突してるのがエモーショナルでしたね!いけてるスーツとかがボロボロになればなるほど、ふたりがますますカッコよく見えるという、なんかすごい喧嘩シーンだった。後味も果てしなく爽やかで、それはズルいんよ~(褒めてる)。二人はあれでしょ、出会う場所が違ったら親友になってたかもしれないやつでしょ、知ってるんだ俺は。
- 若手とベテランのやり取りに生じるエモいアトモスフィア
ベテラン俳優の皆さんが、「100年前からこの街に住んでますけど?」みたいな佇まいで画面に収まっていて、その間でフレッシュで個性的な佇まいの若手俳優たちが全然ちがうロジックで世界を見てるみたいな生き方をしてて、知ってるけど知らない同士がちょっと探り合ってるような感じも面白かったし、それは映画のテーマそのものと通じるところでもあるし、実際の撮影現場の雰囲気を反映してるのかもしれないし、なんか良かったですよねえ。たまたま同じ世界に生きる者同士、仲良くするわけじゃないけど上手くやっていこうぜ、っていう感じね。監督や役者そのほか製作陣の、世の中に対するスタンスや生活実感が、こういう良い感じの雰囲気をつくったんだろうな、と感じられてそれも良かったです。
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はい!ということで由緒正しくハードボイルドな「終末の探偵」、北村有起哉が気になる方も、ジャンル映画やジャンル小説を愛してやまない方も、フレッシュな若手俳優をチェックしたい方も、これからの邦画を担うであろう監督を応援したい方も、みんな観たらいいんじゃないかな!!いい映画だと思うよ!!
では!!!