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映画「怪怪怪怪物!」を観てラストシーンでガッツポーズをしよう

またホラー映画の話ですか!?

そうだよ!!!

ホラー要素は目的ではなく手段だからね!!!テーマと手法がバチっとはまったジャンル映画というのは、本当に良いものですからね!!!

ということで、台湾ホラーの「怪怪怪怪物!」です!

いやこんなの絶対スプラッタ系グロホラーだろ、と思って敬遠してたんですが、去年「返校 言葉が消えた日」を観て台湾エンタメのセンスは割と好きかも?ってなったのと(結果的に2021年のベスト10に入れたくらいは気に入ってますね)、この「返校」を絶賛していた映画レビュワーさんが同じく「怪怪怪怪物!」も絶賛していたので、もしかしていけるのでは…??と興味を持った次第です。大正解でした!!!ありがとう!!信頼できるレビュワー!!(ここで書いても届かないよ)

受験勉強のプレッシャーと陰湿ないじめと頼りない教師によって最悪の状態になった教室で、辛うじて生き延びている成績優秀ないじめられっ子が、教師の思い付きでいじめの加害者たちとつるむことになり、そして食人鬼と出会う……

過酷で閉鎖的な先の見えない状況に、ある意味で適応していく少年たちの繊細な心理を、美しくポップに、そして容赦なく描いた青春ホラーです!意外とグロくない!そして映像がきれい!

 

現実のほうがヤバいにもほどがある

※ここから先、本編の展開に触れますので各自でご判断よろしくお願いします!大きなネタバレはしてないつもり!!

上で書いたあらすじの通り、受験、いじめ、やばい教師と学園三重苦(今つくった言葉)に苦しめられる主人公が、出会ってしまうのが食人鬼。いじめ加害者の悪ノリに引っ張られて、食人鬼を捕まえたはいいが…。

この加害者+被害者の悪ノリグループの描写がまあ極悪なんよ。

加害者のほう、そういう嗜虐的な素質(?)があるのはまあそうなんだろうけど、無抵抗の相手に対する”悪ふざけ”が仲間内のノリで際限なくエスカレートしていくだけでなく、元のいじめ被害者(主人公)も自分がその対象から外れることで積極的に共犯になってしまう一連の流れがめちゃくちゃ気分悪くて最悪。人が死なないだけで、人間の所業としては最底辺の部類ですからね。視聴者ドン引き。

しかもここまでの展開、怪異も超常現象もまったく関係ないっていうね。まだ普通の(普通の?)学園ドラマの延長上にいるからね。ドン引きするのはまだ早いんですよっていう…ほんの序盤だし。

その後、満を持して食人鬼が登場すると、それはもう地獄の底が抜けたような暗黒青春ドラマが開幕します……うぅ。でもそれも、本質的には怪異とかとはぜんぜん関係なくて、とにかく現実の人間がどこまで堕ちて、どこまで他者に対して残酷になれるのか、ということを学園ドラマの中で見せられ続けるんですよ…。うえぇ。それは主役である少年たちだけに限った話ではなく、周囲の大人たちや食人鬼も同じなんですけどね。

 

タイトル…「怪物」とはなにか

で、わざわざ「怪」を4つ重ねてあるタイトルの意味よ。

食人鬼といじめられっ子の組み合わせだと、超常的なパワーを利用した復讐譚になるのかな?って思うじゃないですか。そんなシンプルな話じゃなかったね!

このタイトルが示す「怪物」とは誰のことなのか?4つの「怪」は何を指しているのか?作中で少年たちがとる行動、残酷さを増す秘密の悪行とその顛末、そして食人鬼が見せる”人間性”、それが引き起こす大惨事。

「怪物」を中心にしたドラマの組み立てがまた素晴らしくてですね。まだ自己を確立しきれない少年たちの、誰かとの関係性の中でキャラクターとして振る舞う息苦しさや、心の奥に押し込めている感情そのものが、自身の制御を離れ、それこそ怪物のように現実を食い荒らしていく様子がテンポよく描かれ、ラストまで目が離せないのです。

人間は、どういう条件で最悪なもの(≒怪物)になり得るのか?怪物とは何か?という問いへの考察を、スタイリッシュな演出とクールな映像でこれでもかというくらい見せてくれます。画面内で進行しているあまりの事態と、演出の美しさのギャップでめちゃくちゃ混乱するんですよ…最悪に残酷な怪物は、いったい誰なんだ??ってね…。

 

むしろ心穏やかになれる大量流血シーン、あるいはポップでファニーな地獄絵図

その演出のセンスが最大限に発揮されているのが、劇中で最も大量の流血がある例のシーンなんではないでしょうか……マジで……。あのシーンで、悪趣味にならないのは本当にすごい。青っぽい画面と鮮血の対比で清々しささえ感じるし、作劇の緩急でいえば”緩”なのよ。ウソだろ?って感じだが、笑いどころでさえない、美しくて物悲しい、残酷で穏やかな大量流血…。

この映画で演出される流血や痛みの描写にはすべて物語上の意味があり、大量流血シーンが心穏やかに観れてしまうのも演出意図通りだと思うんですが、それにしても上手い。

ちなみにこのシーンでも人間の所業にドン引きするアイテムがフォーカスされており、感情の持っていきどころが迷子。マジで迷子。そんなところで最悪を更新するな。

なお、流血が比較的少なくて少年たちが元気よくキャッキャしてるシーンでは、まるで青春の温かい思い出の1ページのようにセンチメンタルな暖色の間接光が多用されますが、そして少年たちにとっては確かに仲間うちの親密さを深める大切な儀式なのかもしれないが、画面内で進行している事態は信じ難いほど歪でグロテスク。それを強制的に至近距離で見せられる観客。揺れてきらめく鮮やかな光。なんだよその演出センスは。最高か。

本作、音楽の使いかたが割と特徴的なんですよね。青春映画らしいポップでキャッチ―な(劇中の学生が聴いているような)サウンドにのせて、めくるめく地獄が展開されていくという悪趣味ギャグすれすれの演出が何度かあって、閉鎖的でアンバランスな毎日を生きる少年たちが見ている世界そのもの、という感じが出ててすごく良い。こういう外連味のある演出、好きなんよねえ…。

 

台湾近代史不謹慎ギャグ

あと作中で興味深いのは、全編にわたって繰り広げられる子供っぽい不謹慎ギャグですね。高校生男子が主人公なので不謹慎なのはまあそりゃそうなんですけど。あと、その無邪気な不謹慎さが取返しのつかない酷薄さにスライドしていく…という筋立ては物語の重要な要素でもあるし。

しかし激動の台湾近代史にノールックで(※比喩表現)突っ込むからびびった。いちばん笑ったのは肖像写真を使ったシーンです。あれは笑っていいシーンだと思うので、ぜひ本編で見届けて欲しい。台湾の観客にどれくらいウケるのかは謎ですが…。なんかすごいメタファーなのかもしれんな。

あと、民国軍人だった(と思しき)老人のキャラクター設定とその扱いね…あの辺はさすがに笑いどころが分からんかったので、有識者のご意見を伺いたいところです。どういう温度感なんだ???世代間の差とかもあるのか??なんも分からねえ。

 

ラストシーンに重なるエンディングテーマが完璧

いじめられっ子だった主人公が、加害者との共謀や食人鬼との邂逅を経て、自分の考えで行動を起こして、その結果を引き受けたとき、彼はなにものかになれたんだろうか?「怪物」になってしまったら、もう引き返す道はないのか?食人鬼が救われる方法はあったのか?

そういう答えのない問いを全て抱えて到達する、あのラストのカタルシスよ!映像的なインパクトも相まって、形容し難い高揚感がある。そこにハードロック調のエンディングテーマのイントロが重なってもう完璧。そりゃガッツポーズもしますよ。

劇中でも「口先だけの奴」と罵倒される情けない主人公が、最後の最後に選んだ結末によってこの映画は完成するんですけど。観てる側としては、中途半端なオープンエンドとかにせず、この映画のテーマにきっちり落とし前をつけてくれた監督に、感謝の気持ちでいっぱいになるわけです。そこに流れるエモくて重めのロックチューンとか、最高じゃないですか。歌詞の和訳もちゃんと字幕が出るんですが、内容もとても良いです。本当にありがとう……。

 

総じて東アジアのホラーは沁みるね

良いエンタメというのはもちろん普遍性を持ち得るものだけど、ホラー映画が暗黙の前提としている死生観や規範意識について考えると、漢字儒教圏というか、この極東アジア地域に共通するものがあるよなあと思う。例えば主人公の造形とか、学校でのクラスメイトや教師との関わりとか、中国都市部、香港、韓国、日本の観客だったら概ね”どこかで見たことある”と思うんですよ。そこをスタート地点にするからこそ、この映画が描こうとしている「怪物」、それがもたらす恐怖や解放がクリアに理解できるのではないか、と考えたりするわけです。

欧米のホラー映画でいうと、異教崇拝(悪魔崇拝)とか、あれの本当の怖さや違和感って、実のところあんまり理解できてない気がするんですよね。演出で納得するだけになってしまうというか。

で、日本のホラーだと宗教性が希薄なほうが不気味で怖いんだよね。面白いね。まあ素人なのでこれ以上の分析は有識者にお任せしますが。

閑話休題

何が言いたいかと言うと、「怪怪怪怪物!」をこんなに楽しめるのは現代の東アジアを生きる我々の特権なのだから、ぜひ観よう!ってことです。はい。

このブログ、なぜかホラー映画の話が多いけど、ホラー映画以外も観てるんですよ…なんか感想文を書きたくなるのがホラー映画が多いってだけで…。なんというか、ジャンル映画が内包するある種の歪さが、作品のテーマとぴったり合ってると嬉しくなっちゃうんだよな。上手く説明できないけどさ。

あと今までホラー映画あんまり観て来なかったから色々考えるのが新鮮で楽しい、というのもあるかな。

しかしパッケージのヴィジュアルが怖いので、円盤を購入する決心がつかないですけどね。「返校」くらいおとなしめにしてくれればいいのに……うーん。

それはともかく、本作、ときどきアマプラ見放題とかに入ってるから、機会があったらぜひ観てね!

では!!!