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映画「赤い糸 輪廻のひみつ」のこと忘れないよ絶対

映画って一期一会だよなあ~~~ということを思い知らされる日々のなか……

ギデンズ・コー監督の『赤い糸 輪廻のひみつ』(原題:月老)、配信も円盤も実現しなさそうということで、僅かな鑑賞機会を見つけて観てきましたよ!!!

いや本当に全国で劇場公開してくださってありがとうございます!!!土下座!!配給は台湾映画社、台湾映画同好会の皆様です。しかしこのインタビューでびっくりしたんだけど、全世界(!)の配信権を買ったのはディズニー・プラスですって……それは…もう今後の展開にはさっぱり期待できないな……どっか円盤化だけでも引き受けてくれないかな……(それかわたしに大富豪の遺産が転がり込んでこないかな!!!)。

すでにテンション高く語っている通り、『怪怪怪怪物!』が大好きなので、本作にも期待しつつ「でもポスターとかのビジュアルの感じが分からなすぎて不安すぎる」て感じで恐る恐るしかし前のめりで観に行ったわけですが、や、ギデンズ・コー、天才だな!?小説ばっかり書いてないでもっと映画を撮って!?!?(厄介ファンムーブ)(最近はわりと撮ってる)

マジで映画が上手すぎるのよ!観客の感情を自由自在に操ってくる!!こわい!!!

本作、青春ロマンス、冥界ファンタジー、霊力バトルアクション、転生ホラー、愛犬バディムービー要素まで取り入れた、まるでトッピング全部乗せ豆花みたいな映画でしたね!おなかいっぱい!しかし散漫にならずきっちりオチをつけて感動させてくれるの、さすがの構成力としか言いようがない。設定が突飛なのに安定感があり、小説家らしい論理の詰め方とセンスあふれるビジュアルに爆笑していたら、急なエモーショナルで泣かされて大変だったよね!あと日台のポップカルチャーへ言及する小ネタが大量に差し込まれててサービス過剰で最高に楽しかったです。

パンフレットにあった監督ブログからの引用で、「決定論は好きじゃない、運命で決まってることなんてない」という趣旨の文章があって、そ、それがギデンズ・コー作品の好きなところだよ!!って膝を打ちました。さすがやで。人間の持つ意志の力、善を志向する心、選択する勇気、そういったものたちを愛し、篤く(厚く、熱く)信頼していることが、作品の全てから伝わってくる。それはホラー作品である『怪怪怪怪物!』でも全く同じだったので、なるほどなあ、と思いました。与えられる条件はみんな違うし、できないこともたくさんあるけど、でも自分の人生を他の誰かに任せて終わるなよ、という熱いメッセージがそこにある。

ということで、次にいつ観られるかわからない『赤い糸 輪廻のひみつ』の感想&内容のメモですよ!致命的なネタバレはしないつもり……!

 

異様に強いビジュアル

それにしてもビジュアルが強いよね!!!色調やライティングを大胆に動かす演出も癖になるが、死後の島の、人間性を拒絶するような荒涼とした岩山もいいよね!そこで人間味あふれる神様たちが右往左往しているのがもうそれだけで面白いし、ラスト近くに出てくる美しい砂浜との好対照にもなっている。てかあの砂浜はどこなんよ??彼岸?あの賢くて優しい子(ネタバレ回避)は、永遠の安寧を得たってこと??

キャラクターデザインも秀逸…というか、端的に『幽遊白書』のオマージュなんだってさ!監督インタビューより。すごい納得感ある…あと、韓国映画の『神と共に』を観て本作のアイディアを構想したらしいが、閻魔さまの表象が、日本→かわいい男児、韓国→威圧感のある官僚男性、台湾→汚いおじさん、なのはけっこう興味深いポイントだな、と思いました。物語の中での閻魔さまの役割自体にはそれほど差が無いのに、それぞれエンタメの天才たちがバトルファンジーものに出す閻魔さまのスタイルがこんなにバラバラで、だけどそれぞれに納得感があるのがすごい面白いよね。東アジア地域の差異と同質性の絶妙なバランス。

 

ポップカルチャーの怖いものなしな引用っぷり

そんで『幽遊白書』を筆頭に、日本のポップカルチャーの引用がたくさんあってニッコリしてしまうよね。分かりやすく出てきただけでも『花より男子』の”道明寺”、『スラムダンク』の”桜木花道”、『呪怨』の親子、たぶんもっとあった気がするがもう思い出せない!監督は以前から日本のカルチャー好きを公言されているそうですが、それにしても詰め込んだな!!と嘆息せざるを得ない。

もちろん台湾の人気歌手やアイドルへの言及もたっぷりあって、サービスがすごいのよ。いや本当に。台湾のポップカルチャーに詳しい人だったらもっと楽しめるポイントがたくさんあると思う。あ、でもさすがに五月天(メイデイ)は分かったぞ!みんな大好きメイデイ!

で、そういう同時代的なカルチャーで彩ることで作品の雰囲気を決めていく感じがベテランの小説家ぽいな、と思いました。エンタメが上手い!(エンタメが上手い??)

ポップカルチャーといえば、前半のクライマックス…月老になったみんなが地上に繰り出す、キュートで多幸感に満ちたシーケンスで流れてる日本語の曲、BABY METALだったね(詳しくないのでエンドクレジットで知った)。ポップで元気いっぱいで、そこはかとなく不穏で浮世離れしてて、映画の雰囲気にぴったりですごく良かったです。

ちなみにこのBABY METALの曲がほぼフルで流れる一連のシーンの多幸感で、2回目に鑑賞したときにボロボロ泣いてしまった。全然そんな湿っぽい場面じゃないんだけど……。

 

ホラー演出の切れ味!

メインストーリーの幼馴染ロマンスと並行して、転生リベンジホラーが展開するんですけどまあ怖いのよこれが。そ、そんな真剣に理不尽暴力大量流血陰惨演出をお出しするんです!?てなってびっくりしたわよ(好きだけどさ)。

特に好きなポイントが二つあって、一つ目は、冥界?で怨霊になるように誘導してくる女性(この女性のビジュアルも不気味だけど見慣れるとかわいくてすっごく良い)の首が飛ぶところ。ちょっと意外な工夫があって悪趣味にならずに薄気味悪くてすごく良かった。もう一つは、怨霊が乗り移った人の足元の描写。かかとが重なってることで怨霊に操られていることを表現する演出、いいよね!(観てないと意味が分からんと思うが)

ちゃんとホラー側のストーリーもめちゃくちゃ怖くて悲しくてエモーショナルで、人間に絶望しきれない優しさがあって、さすがギデンズ・コーだなあと思ったことでした。

なんていうか、『あの頃、君を追いかけた』と『怪怪怪怪物!』を足して2で……割らない!!っていうサービス精神に痺れるね。剛腕にもほどがある。

 

ベタな人情劇!真摯なロマンス!バカバカしいギャグ!

ベタな人情劇をやりながらそこに人生の真情をのせ、真摯なロマンスの合間に照れ隠しのようにバカバカしいギャグを挟む……本当に期待を越えてくるぜ、ギデンズ・コー

ギャグがマジで中学生男子レベルなので、ヒロインにも「いつになったら大人になるの?」などと言われておりそれはその通りなんですが、でもこの話は大人になれないまま死んでしまった青年の話なんだよなあ、と思ってまた泣く。中学生どころか小学生男子の売り言葉に買い言葉みたいな愛の言葉にも泣く。

あまり素直になることに慣れてなさそうなピンキーが、感謝や謝罪のときに言葉を繰り返したりするところ、獣医の先生が等しく命を大事にしていて勇敢なところ、牛頭馬頭の二人の短いやりとり、そういう、その人のことをもっと好きになる何気ないシーンを手早く挟みながら、しょうもない下ネタギャグに尺を取るバランス感覚。なんだそれ…そこがいいとこなんだけどさ!あまりの落差に感情が迷子だよ!何回でも泣くだろそんなの!(そしてギャグで泣いたみたいになって混乱するまでがセット)

 

しかしながら(しかしながら?)最近ちょっと考えているのは、邦画のメロドラマ的展開が受け付けないのに対して韓国、香港、台湾の映画のベタな人間ドラマが大丈夫なのは、言葉が分からなくて字幕頼みになることで、細かいニュアンスが無くなって素直に感動できるからなのかしら、ということです。ここで引き合いに出して申し訳ないけど、例えば『ゴジラ-1.0』の人間ドラマ部分が好みに合わなかった人でも、外国語吹替版を字幕で観たら評価が変わるのではないか…?ていう話。いや自分のことだけどさ。

だから東アジア圏の映画の人情ドラマ、基本的に大好きだけど結局のところ同じ文化圏なので実は邦画の人情ドラマも愛せる素質があるのでは…?そうなのか…???

でも人情もので感動できるのって、そこまでのキャラクターやエピソードの丁寧な積み上げありきなので、その辺がちゃんとしてて欲しいよな…いやそこも聞き取れない言語だと採点が甘くなるかもな………分からん………。

 

かわいくて賢い犬!

すっごい活躍していた犬のAKITAくん!なんて賢いんだ…ちゃんと演技をしている……。監督が私生活でも犬を飼っていたことからの着想のようですが、それにしてもいい役であった。パンフにもちゃんと紹介ページがあって、それも納得の活躍っぷりだったし、犬と生活したことのある人だったらなおさら、愛着が湧くと思う。人のことを深く信頼している犬の仕草や目線がすごく丁寧にカメラに写っているので。あとエンドロールな!最後までサービス精神というかなんというか、過剰で良いですね!!!

 

その他(その他?

台湾も香港もたぶん韓国も、宗教が生活の中で生きてる感じがしてそこが彼我の大きな違いかなあと思います。台湾の寺院やお祭りの賑わいを見ると、その活気というか熱気に感心させられるよね。そういう社会が土台にあるから、本作みたいな映画が広くヒットするんだろうなあ、とか思いました。ぜんぜん的外れだったらごめん。

あと本作、設定集みたいなの無いんですか?無い?あ、そう……。

というわけで、もう上映が少なくなっているタイミングにこの記事を公開する意味があるのだろうか、とか思わなくもないけど元より自分用の備忘録なので気にせず行きます。

観れる人はぜひ観てよね!きっと好きになるよ!!!

では!!