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映画「返校 言葉が消えた日」を観て東アジア現代史への無知を自覚する

この記事ほぼ書き終わってから気付いたんですけど、今週末12/3にDVD発売じゃん!!!日本語吹替版もあるんだ!?偶然だけどもし興味が出たらレンタルでもいいから観てね!!!!

返校 言葉が消えた日 [DVD] – TWINオンラインショップ

台湾発!社会現象とまで言われた大ヒットホラーゲームの映画化!!

…ていうくらいの予備知識で臨んで、いやこれ、めちゃくちゃ面白いな!?!?!ってなったんですけど、あまりに時代背景を知らないので申し訳なくなってきた今日この頃です。みなさんお元気ですか。わたしは元気です。

映画の舞台は1962年、戒厳令下の台湾の、とある高校の放課後。ひとり居残っていた少女が教室で目を覚ますところから物語が始まります。"返校"というのは中国語で「学期が始まる直前に一度学校に帰る日」を意味し、原作ゲームのサブタイトル"Detention"(居残り、または拘束・監禁などの意)が示す通りの状況で、人の気配のない、ただならぬ雰囲気の校内で、なぜこうなったのか?どうやったらここから脱出できるのか?を紐解いていくノスタルジックな学園ホラー・ミステリーなのです。

いやもうそんなの絶対面白いじゃん!!ていうのと、夏にぴったり過ぎる!!!

ていうか都会のほうでは7月に上映してたらしいじゃないですか!?その頃はマジで引きこもってたので、今月になってようやく観れたのよ!まあそもそも映画のために遠征する発想は無いんですが。それにしても、夏の夜とかに観たら雰囲気あって良かっただろうねえ~~いいなあ~~

ホラー映画は本当に苦手なんですけど、そしてさすがのR15+指定ということでイヤーッッって感じのシーンもありつつの、しかしながらその映像美!!ベタなまでの甘い感傷を映し込む暖かなセピア色の学園生活、陰影のコントラストが息を吞むほど美しい夜の学校、ビビッドでダークなホラー演出、映り込む全ての要素に意味を持たせる繊細かつ執拗に作り込まれた画、何もかもがツボ。いやホラー演出はもうちょい控えめでも良かったけど…ごめんよ。

ゲーム画面っぽいワイドショットや一人称視点も多用されていて面白かったですね~この辺り、ホラーゲームという老舗ジャンルのいいとこどりっぽくて好感が持てましたが、ちょっと好みが分かれるかもしれんね、オレは好きだよ。

もしまだ映画を観てない人が万が一このページ読んでたら、公式サイトにも、下の方にリンク貼った記事にもシーン写真がたくさんあるのでぜひ見てあげてください…できれば前情報ゼロで本編を観て欲しいけど…仕方ない(?)な…。

作中の重要なキャラクターの一人(?)、夜の学校を徘徊する怪物の造形がまた面白い。これは公式サイトの監督インタビューに載ってたので書きますが、原作からの大きな改変部のひとつらしい。映画の尺に収めるためにシナリオから宗教的要素を減らして、それに応じて怪物も官憲の姿になったそうなのですが、これはナイス判断だったと思います。実際の官憲の姿は回想シーンで何度も出てくるので、怪物のモチーフや意図がすぐに理解できるし、原作が持つ土着性は薄れたかもしれないけれど、その代わり映画が描くテーマが明確になって、作品自体の普遍性が増したのではなかろうか。怪物の"台詞"もまたいい(怖い)んですよね。初登場シーンの説得力よ。

それから主演二人が大変に美しくてですね。思い出が美しいからこその恐怖と絶望を描くホラー映画が要請するセンチメンタルな美。そして瑞々しくて繊細な演技。青春ミステリーに相応しいフレッシュさ。へえーと思って、台湾俳優に詳しくないので公式サイトの経歴を読むとですね、少女役の俳優は、14歳で小説家デビューした俊英で、少年役のほうは数万人のオーディションを勝ち抜いた新人。いやマジかお前ら。ちょっと盛り過ぎでは…ってなるよね。眩しくて直視できない(?)。これからも良い仕事をしてスターダムを駆け上がってくださいね…隣の島国の片隅から応援してます。

で、ここまで書いたすべての要素を踏まえて、この映画が描く戒厳令下の青春、抑圧的で閉塞的な生活の中で鮮やかにきらめくかけがえのない瞬間、強い絆で結ばれた友情や、あわい恋心、愛おしい仲間たちとの他愛ないやりとり、それは程度の差はあれ誰もが青春時代に、ままならないことばかりの苦い思い出と共に経験したことでもあります。

そういう普遍的な情動と、台湾現代史というローカルなモチーフが上手くかみ合ってるのが本作の美点なのですね~!(まあ良いフィクションというのはだいたいそういうものですが!)

ホラーといえども、作中で最も理不尽な恐怖をもたらすのは抑圧的な政治体制ゆえの監視と密告の応酬だし、取り返しのつかない判断を狂わせるのは人間の感情だし、人を精神的にも身体的にも傷つけるのは人だし、人を救うのもまた人であるということが繰り返し描かれていて、鑑賞者は、これまでの人生で犯した小さな罪やそれに伴う罰を思い起こさずにはいられないのです。

監督や原作ゲームの製作プロデューサーが語っている通り、いまクリエイターとして頭角を現している彼らの世代(40代前半)が、白色テロ時代をぎりぎり自分の記憶として覚えている最後の世代なんですね。戒厳令が解除されたのが1987年なので、30代以下の世代は、その雰囲気は知っていてもほとんど記憶にはないでしょう。

そういう立場である彼らが意識的にこの時代・この題材を扱って、それ故に同時代性と普遍性を兼ね備えた良作が生まれるのも必然なのだなと感じました。

あとゲームというプラットフォームの広がりと可能性について。これまで映画、ドラマ、漫画、アニメが担っていた役割の一端を担うようになったんだなあと改めて実感しましたね(これはフリー・ガイを観た時の感想と通じるところがある)。ゲームという文化が、自己表現の手段のひとつとして広く認知されていて、かつ現実を改変するだけの社会的地位(ボリューム)を形成するに至ったのだな、ていう。今さらっちゃあ今さらな感想ですけど、自分みたいなほとんどゲームをやらない人間にもそう思わせるんだからこれは相当ですよ。興味深いな、と思いながら観察してます。

ということで、語りどころのたくさんあるフレッシュでノスタルジックなホラー映画でしたので、15歳以上でホラー耐性がちょっとでもある人は、どうにかして観てね!!

以下、興味深かった記事のリンクをメモ代わりに。監督インタビューは公式サイトにも長めのが載ってるので併せて読むと理解が深まって良い。

監督インタビュー。白色テロ時代を描いた他の台湾映画についても触れられていて参考になりますね…(無知)

台湾の闇の時代「白色テロ」を描いた大ヒットホラー映画『返校 言葉が消えた日』 | LEE

原作ゲームのプロデューサーのインタビュー記事です。元々のゲームの製作時に映画の影響を受けているということで、映画化(映像化)と相性がいいのも納得です!!

台湾の人気ホラーゲーム映画化! 歴史の暗部えぐる『返校 言葉が消えた日』原作クリエイターが語る“社会現象ヒット”の秘密 | 映画 | BANGER!!!

去年くらいまでほとんどノーマークだった東アジアエンタメ、期待値を軽やかに超えてくるから油断できない…!!ヤーッッ!!!

では!!!!!