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今のところ映画の話をしています

映画「PIG/ピッグ」を観てニコラス・ケイジを再発見しよう

はい!ニコラス・ケイジ100本目の出演作「PIG/ピッグ」です!!!

ニコラス・ケイジ自身が、自分の出演作から3本選ぶとしたら?と聞かれ、(プロモーションの意図も多少はあったと思うけど)本作を挙げたという「PIG/ピッグ」!(ソース不明…すまんな)

あとですね、ちょっとそのままリンク貼りますが、趣味の良さで知られるオバマ元大統領が選ぶ2021年の映画14本にも入っていますね!おお!

 
 
 
 
 
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しかしこうして眺めると、オバマの映画リスト、めちゃ野心的で面白いな…さすが毎年注目を集めるだけのことはある。

で、「PIG/ピッグ」よ。

ニコラス・ケイジには特に思い入れはないし(すみません)映画自体の前評判も口コミも聞かないけど、ポスターの雰囲気は良いし、ご本人とオバマ元大統領が認めているなら面白いのでは??と思って観に行ったんですけどね。

そしたらやっぱりいい映画だったんですよ、テーマがちゃんとしてて、脚本に工夫があって、役者が良くて、ビジュアルも力が入ってて、見どころの多い作品でした。だけどなんか公開規模は小さいし、パンフレットは無いし、宣伝にやる気が無いというか、そもそも方向性が間違っているというか…(これは前記事の「デュアル」でも同じ感想を持ちましたが)。

ミニシアター系の映画ってプロモーションを頑張ってるかどうかが(地方都市にいてさえ)すぐ分かるな、ってなったのは収穫だったけどさ。ちゃんとテーマや演者に相応しいインフルエンサーの皆さんにオンライン試写で観てもらってくれよ……と思いましたです。あれかな、大きめの賞レースに絡んだら大々的に売り出すつもりだったんかな………まあ買い付けて劇場公開してくれてありがとうだけどさ…。

知人が観に行った映画館でも、雑誌記事の切り抜きの掲示が他の映画と比べるとえらい少なかったらしく、本当に全然プロモーションしてねえんだな、と思いました。

あとなんかレビューサイトも、ただでさえレビューが少ないのに低評価が何個もあるし……。

そういう感じでなんか不憫になってきたので、せっかくなので感想を書き残しておこうと思います。ただパンフも何にもないので、本当に記憶だけを頼りに書いています。正確性はまったく保証できない。あと、浅い映画ファンなのでニコラス・ケイジのことはあまり分かってないです、すみません(二回目)。

※一応、あまりネタバレしない予定です※

でもさ、この「PIG/ピッグ」を観て酷評してる人って要は”観たかったんと違う”ってことなんで、そういう不幸が生じるから宣伝を真面目にやれよって話なんですよ。ニコラス・ケイジのファンが、体格を生かして暴れ回るジョン・ウィックみたいなニコラス・ケイジを観たくて来たらそれはちょっと違うな、ってなるじゃろ。どちらかというと、ヨーロッパのミステリー映画みたいな、ちょっと変わった謎解きとしっとりした人間ドラマを味わう映画なのでね。本当に不憫な映画だよ…(「デュアル」の感想でも似たようなことを書いたけどな!)。

タイトルにもなっている豚ちゃんは、冒頭で示される通り、ニコラス・ケイジ演じる世捨て人が飼っているトリュフ豚で、ニコラス・ケイジはそのトリュフを売って細々と生計を立てています。ほとんどインフラが無さそうな森の中で、豚ちゃんと二人きりで静かな生活を送っていたのに、ある日その大切な豚を盗まれてしまい…、というのが導入部なんですけど、この時点で謎が多い!!落ち葉を踏む音や豚ちゃんの息づかいが響く、木漏れ日の美しい森の中。質素だけれど丁寧な暮らしが垣間見える、居心地の良さそうな山小屋。ストイックな振る舞いを崩さない、無精髭に覆われてほとんど表情の見えないニコラス・ケイジ。アレックス・ウルフ演じるバイヤーも、このトリュフハンターが本当は何者なのか、知らないらしい…。

ほら面白そう!!

そう、それでそのアレックス・ウルフくんですよ。ニコラス・ケイジとほぼ二人っきりで全編を引っ張る重要な脇役なんですが、野心的で繊細な若者を演じて、ド迫力のニコラス・ケイジときっちり渡り合っていてすごく良かった。最初は、トリュフを介したビジネス上の付き合いだけだった(というかほぼ付き合いが無かった)二人の関係が、豚ちゃんを探す過程で少しずつ、しかし確実に変化していくのを、戸惑いながら受け入れていくアレックス・ウルフくんは、観客にとってはこの謎の多い物語のガイド役であり、そのための取っ掛かりやすさと、単純明快になり過ぎない抑制的な振る舞いのバランスが素晴らしかったです。

ニコラス・ケイジは、それはもうね…起伏のあり過ぎる実人生で得たものすべてをスクリーン上で見せてくれるニコラス・ケイジ、って感じでした。いやほんとに。髭も髪の毛も伸び放題のぼさぼさで、表情は乏しく必要最低限の言葉しか発しない、それでも泥棒たちへの激しい怒りや、過去の出来事への深い悲しみ、仕事に対する真摯な気持ち、人間への愛着、そういった強い感情が画面越しにビシバシ伝わってきて、ちょっとびっくりしました。ニコラス・ケイジ、あんまりそういう目で見たこと無かったから…(?)。

なぜ豚ちゃんが攫われ、今どこにいて、どうやって連れ戻すのか?物語の展開を通じて語られる人生の意味。運命を受け入れることは人生を諦めることではなく、自分自身を否定することでもない。大きな喪失は深い悲しみと癒えない傷をもたらすけれど、それを抱えたままでも人間は人間らしく生きていくことができるはずだという、祈りにも似たメッセージが、そこに込められているのです。そしてそのメッセージに確かな実感を与えているのが、タフで自由で、その身に負った傷をそのままさらけ出しているようなニコラス・ケイジの佇まいなんですよね。既存の秩序を破壊する力、小さく美しいものを慈しむ深く暖かい懐、正しさを希求する勇気と強さ、そういった美徳(たぶん…)を全て身に纏ってなお、実在感を損なわないニコラス・ケイジの身体性みたいなもの、に圧倒されましたね。

全体的に色調は美しいけど暗いし、登場人物はみんな悲嘆か怒りに囚われているので、前半はちょっと遣る瀬無い雰囲気なんですが、それでも悲しくて寂しいけれど前向きな本作に相応しく、エンドロールの余韻も素晴らしいです。前の方でも少し書いたけど、音の演出が良くて、静かだけれどにぎやかな森の中、騒がしくて苛立たしい都会、人を導く音色、絨毯が音を吸い込む暖かな室内、それぞれの場面に身を置いているかのような繊細な演出が素晴らしく、映画館で観れて良かったなあと思いました(自慢)。

ネタバレせずに良さを説明するの難しいんだけど、とにかくいい映画だったんですよ~巻き込まれ系ミステリーが好きだったら絶対おススメだけど、最先端のニコラス・ケイジを見届ける意味でも、フレッシュなクリエイターの感性に触れる目的でも、アレックス・ウルフくんの躍進を確認する意図でも、とにかく色んな映画ファンに薦められる作品だと思います(オバマのセレクトはなるほど正しい)。

はい!ということで、機会があれば観てください「PIG/ピッグ」!オバマ元大統領と会ったときに共通の話題にもなるから!!!

では!!!